化学兵器使用に再び軍事攻撃、不明確な米の対シリア戦略
抑止効果疑問視する声も
トランプ米政権は13日、英仏と連携してシリアのアサド政権の化学兵器関連施設とみられる3カ所を標的にミサイル攻撃を実施した。昨年4月に続き、国際法違反である化学兵器の使用には、軍事行動で報いることを改めて示した。しかし、専門家からは、今回の攻撃ではアサド政権による今後の化学兵器使用の抑止には不十分な上、内戦状態が続くシリアに対するトランプ政権の戦略が明確でないことが指摘されている。(ワシントン・山崎洋介)
今回のシリア攻撃について、外交問題評議会(CFR)のリチャード・ハース会長は19日に発表した論文で、「軍事行動によって化学兵器の使用を許さないとする国際規範を示したことは正当であり、歓迎すべきことだ」と評価。一方で、後ろ盾であるイランやロシアとの交戦を避けるように配慮したことで、「戦いを拡大させるリスクは減らすことができたが、攻撃目標を幾つか除外したことで、シリア政府が支払うべき代償は限られたものになった」と指摘、その効果を過大視すべきではないとした。
アサド政権は化学兵器を使用することで、首都ダマスカス近郊の東グータを拠点としていた反体制派を降伏させ、その地域を支配した。ハース氏は、アサド政権が「化学兵器の使用によって得たものは、(米英仏による軍事攻撃で受けた)損害を上回っている」とし、今後も化学兵器を保持し、生産を続けることはほぼ確実との見方を示した。
ロバート・フォード元駐シリア米大使は、米シンクタンク、ウィルソン・センターで20日に行われたシンポジウムで、アサド政権が再び化学兵器を使用する可能性について、「塩素ガスかもしくは他の化学兵器で、われわれを試してくることに疑いを抱いていない」と警告している。
トランプ政権はシリアへの2度の軍事攻撃で、化学兵器の使用に対して具体的な行動で報いる姿勢を示し、化学兵器使用をレッドラインとしながら軍事力の行使は避けたオバマ前政権との違いを明確にした。しかし、シリアに対するトランプ政権の戦略が見えないとの指摘も多い。
ロバート・ダニンCFR中東担当上級研究員は、トランプ政権とオバマ前政権が共に化学兵器の使用に対し軍事力の行使を考えた一方で、アサド政権による自国民間人の無差別殺戮(さつりく)やシリアにおける米国の地政学的な戦略目標については考慮しなかった点で「著しい継続性がある」と指摘。唯一の違いは「オバマ氏が最終的にシリアへの攻撃を撤回したのに対し、トランプ氏は2度実行したこと」だとした。
ライアン・クロッカー元駐イラク米大使は、同シンポジウムで、トランプ政権による2度の軍事介入を「(対シリアの)戦略と混同すべきでない」と指摘。化学兵器の使用以外は問題にしていないことによって、アサド政権に対して「化学兵器さえ使わなければ、自国民を殺戮しても構わない」と伝えていることになるとの見方を示した。
この7年間のシリア内戦で、50万人以上が死亡し、1000万人以上が退避を余儀なくされているとされる。昨年10月に過激派組織「イスラム国」(IS)が壊滅した後も依然として混乱が続いている。
ハース氏は「米国の目標がISや他のテロリストが再結集することを防ぐことであるとすれば、その状況にはまだ程遠い」と指摘。トランプ氏はシリアに駐留する米兵2000人の撤収の可能性について言及しているが、「今後も少なからぬ米軍のプレゼンスと関与が必要とされる」と主張している。