トランプ米政権、「力による平和」へ国防費増額

管理法の上限撤廃が課題

 トランプ米政権は、先月12日に2019会計年度予算の大枠を示す予算教書で国防費を前年比約7・4%増の6760億㌦に増額した。軍の規模縮小を進めたオバマ前政権の政策を転換させ、「力による平和」を目指す姿勢を明確にした。一方で、トランプ氏が目指す軍の再建を軌道に乗せるには、今後、予算管理法が定めた国防費上限を撤廃できるかが課題だ。(ワシントン・山崎洋介)

深刻化する装備の老朽化

 トランプ政権は、今回の国防予算案の中で、最新鋭ステルス戦闘機F35を77機、イージス駆逐艦を3隻、バージニア級原子力潜水艦2隻を新造し、2万5900人を増員するなど、米軍の増強策を打ち出した。トランプ氏は、これについて「われわれは今までで最強の軍を手に入れようとしている。ほぼすべての兵器を増強することになる」と述べ、米軍再建に向けた大きな一歩であることを強調した。

ジェームズ・マティス氏

2月6日、米下院軍事委員会の公聴会で証言するジェームズ・マティス国防長官(UPI)

 しかし、トランプ氏の目指す軍再建を本格化させるには、今回の予算増額だけでは不十分との声も上がっている。

 米シンクタンク「超党派政策センター」のジム・タレント上級研究員(元上院議員)は先月、ナショナル・レビュー誌(電子版)で、冷戦終結以降、軍の規模縮小や予算削減が進められてきたと指摘。特にオバマ前政権下に13年から10年間の国防費などの歳出上限を定めた「予算管理法」が成立した影響が大きかったという。同法などによって、13年からの5年間で国防費が4840億㌦も削減されることとなった。

 議会では先月9日、トランプ氏の要望に沿う形でこの歳出上限を18年度と19年度の2年間にわたって引き上げることを盛り込んだ予算法案を可決。これを受けて、予算教書の国防費も増額されることになったが、タレント氏は、これまで進められてきた予算削減の影響が深刻なため、軍の再建には議会が考えるよりも多くの予算が必要だと強調する。

 国防費に上限が設けられたことによる打撃の大きさについて、ジェームズ・マティス国防長官は先月6日、下院軍事委員会の公聴会で「過去16年間の戦争はわれわれにとって厳しいものだったが、予算管理法による国防費上限よりも米軍の即応能力を大きく損ねた敵は戦場にはいなかった」と証言している。

 特に問題なのは、人員削減や航空機・艦船の老朽化が進んでいることだ。タレント氏は「装備の老朽化がいかに米軍を弱体化させているか、強調し過ぎることはない。そのことがメンテナンス費用を上昇させ、ただでさえ少ない予算をさらに消耗させている」と訴える。

 昨年8月にはミサイル駆逐艦ジョン・S・マケインがシンガポール沖でタンカーと衝突し、乗組員10人が死亡するなど事故が相次いでいるが、予算削減による人員や訓練の不足が原因となっていることも指摘されている。

 ワシントン・タイムズ紙によると、海軍制服組トップのジョン・リチャードソン作戦部長は、昨年、海軍では事故で約20人が死亡したが、予算不足が一因になっていると主張。艦船のメンテナンスに「深刻な影響をもたらし始めている」と語っている。

 米保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のフレデリコ・バートルス政策アナリストは、2年間に限った一時的な上限引き上げ措置ではなく、予算管理法が定める国防費上限自体を撤廃すべきだと主張する。同氏は今回の予算案について、国防総省が「より多くの任務をより少ない人員でこなさなければならない時代からの転換を模索していることは良い兆候だ」と評価する一方、議会が国防費上限を撤廃しなければ「軍を再建し、国家国防戦略を実現するために必要な資金を供給し続けることはほぼ不可能だ」と指摘した。

 米軍再建に向けて一歩を踏み出したトランプ政権だが、中国、ロシアが軍備増強を進める中、米国がどこまで国防に予算を拠出できるか、今後が注目される。