信頼低下、民主主義の危機
昨年7月に米中西部オハイオ州クリーブランドで開かれた共和党全国大会は華やかに演出され、トランプ氏が正式な党の大統領候補に指名された。
その会場となったクイッケン・ローンズ・アリーナの外では、トランプ支持者と反トランプ活動家が大勢詰め掛け激しく対立。警察も多数動員され物々しい雰囲気に包まれた。メディアはこぞってこの様子を取り上げ、「社会の分断」として何度も報じた。
一方で、会場外にはリベラルメディアに黙殺されたもう一つの声が広がっていた。メディアへの批判だ。
「新聞やテレビの偏向はひどすぎる。今回の大統領選でトランプ氏に対する報道は度を越していた」
会場の外にいたトランプ支持者のボブ・ハイセンさん(65)は当時、本紙の取材にメディアの偏向を何度も訴えた。
報道機関への批判を語ったのは、ハイセンさんだけではない。何人かのトランプ支持者にメディアのことを聞くと、ほとんどの人から「偏向している」「信用できない」などとする言葉が返ってきた。
米国ではメディアへの信頼性が悪化の一途をたどっている。
大手調査会社ギャラップが昨年9月に行った世論調査では、「メディアがニュースを正確で公正に報じていると信頼できる」と考える有権者はわずか32%だった。これは同社が1972年から行ってきた調査で最低の数字だ。
特に共和党支持層で信頼度が低く14%で、無党派層でも30%だった。主要メディアは民主党を好意的に報じることが多いが、その民主党支持層でさえ51%しかメディアを信頼しておらず、党派を問わず米国民の間でメディアへの信頼が急激に低下していることが改めて浮き彫りになった。
またUSAトゥデー紙とサフォーク大学が昨年10月に発表した調査では、公正な選挙結果を変えようと企む最大の脅威を「ニュースメディア」だとした有権者は46%で、「ロシアによるハッキング」(10%)や「政界の既成勢力」(21%)を上回るショッキングな結果だった。
アトランティック・マンスリー誌の元ワシントン編集長ジェームズ・ファローズ氏は著書『ブレーキング・ザ・ニュース』(邦題『アメリカ人はなぜメディアを信用しないのか』)で、「米国ではこれまで多くの機構が信用を失ったが、メディアほど完璧にその信用を失墜したものはない」とし、信用低下は「短期的にみるとジャーナリズムとそれらに関わる人々の問題だが、長期的に見れば、これは民主主義の問題だ」と強調した。
CBSテレビの元プロデューサー、バーナード・ゴールドバーグ氏は「主要メディアは有権者の信用を失っても気にしていない上に、メディア自らが信頼を傷つけている事実からも目を背けている」と主張。このまま報道機関を誰も信頼しなくなると「民主主義が危機に陥ることになる」と警告した。
(ワシントン・岩城喜之)






