行方左右するルラ元大統領の裁判、来年10月にブラジル大統領選

不出馬なら混戦の見通し

 ブラジル大統領選が来年10月に予定されている。世論調査では、本命は左派系のルラ元大統領だが、汚職絡みの裁判が続いており、混戦となることも予想される。
(サンパウロ・綾村 悟)

ルラ氏

7月13日、サンパウロで記者会見するブラジルのルラ元大統領(EPA=時事)

 ブラジルのダッタ・フォーリャ社が発表した最新の世論調査では、現時点での大統領選の有力候補は、労働党のルラ元大統領(72)と愛国党のジャイール・ボウソナロ下院議員(62)だ。

 ルラ氏は、旋盤工からの叩(たた)き上げと労働組合の闘士という経歴で知られ、民政移管後のブラジルで初の左派政権を率いた。2002年の大統領選で当選すると、その圧倒的なカリスマ性と資源ブームに乗った経済成長、「飢餓ゼロ」をはじめとした社会保障政策で貧困層を中心に爆発的な支持を得て、16年まで続いた労働党長期政権の礎となった。後にも先にも80%という世論の支持を集めたブラジルの政治家はルラ氏だけだ。

 ただし、ルラ氏は今年7月、汚職容疑でパラナ州連邦地裁から9年を超える有罪判決を受けて控訴審を控えている最中だ。控訴審の行方によっては、大統領選への出馬が禁じられる可能性がある。

 一方のボウソナロ氏は、軍事政権の復活などを主張する極右政治家として知られる。差別・問題発言を繰り返し、本来なら大統領候補として注目を集めるような人物ではない。だが、ブラジル政界は現在、ルラ氏が所属する労働党から中道保守の現連立政権まで、多くの政治家が汚職で追及を受けており、国民の政治不信は頂点に達している。

 こうした中、歯に衣(きぬ)着せぬボウソナロ氏の発言は、一定の支持を得ており、世論調査では、ルラ氏の35%に次ぐ、17%もの支持を集めている。ただ、選挙が近づけば、ボウソナロ氏は有権者の投票対象からは自然に外れるとの見方もある。

 このような流れの中で、国会で現在、大統領選のキャスティングや政策に大きな影響を与えかねない法案が議論されている。破綻寸前ともいわれているブラジル財政の改革に欠かせない年金改革法案がそれだ。

 同法案は、国政総選挙(大統領・国会議員)の前年に審議が開始されただけに、有権者の反発を恐れる議員の反応は鈍く、改革案は縮小を余儀なくされながら投票を待つのみとなっている。ただ、国政選挙との兼ね合いで来年3月までの法案成立の期限までに国会を通過するかどうかは微妙だ。

 仮に、年金改革法案が通過しなかった場合、ブラジル国債の格下げや通貨への影響など実体経済へのマイナス影響が予想されている。その場合、次期大統領候補は、財政改革や経済成長への道筋を国民に示すことが求められる。実務家として知られ、経済界にも人気があるジェラルド・アルキミン・サンパウロ州知事ら経験豊富な政治家に支持が集まることも考えられる。

 ブラジルの大統領選が本格的に始動するのは来年4月以降だが、カギを握るのはルラ氏の裁判と年金改革法案の行方だ。ルラ氏は無罪を主張し、大統領選出馬を最後まで諦めないとしている。

 ルラ氏とボウソナロ氏のほかに出馬が明確となっている有力候補は、環境問題活動家で国民からの人気もある元環境相のマリナ・シルバ氏とサンパウロ州知事のアルキミン氏だ。

 加えて、現政権の連立与党からメイレレス財務相が出馬する可能性もある。ブラジル経済のプラス成長が明らかになる来年の経済動向によっては、メイレレス氏が大統領選で注目を集めることもあり得る。

 ルラ氏の裁判の行方によっては、大統領選が一気に混戦となることが予想され、見通しは非常に流動的となっているのが現状だ。