米シンクタンク、中国の圧力でシンポ中止

汚職暴露の郭文貴氏が講演予定
懸念される言論の自由への介入

 中国共産党幹部の汚職や不正を次々と暴露している中国人実業家、郭文貴氏が4日に講演する予定だった米シンクタンク、ハドソン研究所主催のシンポジウムが中国の圧力によって直前に中止されたことが波紋を呼んでいる。郭氏をめぐっては、4月にも米政府系放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)との生放送インタビューが中国の介入とみられる動きで打ち切られており、相次ぐ圧力に懸念の声が広がっている。(ワシントン・岩城喜之)

郭文貴氏

5日、米首都ワシントンで記者会見し、中国共産党の内部文書を暴露した郭文貴氏(岩城喜之撮影)

 「ハドソン研究所の決定には大きなショックを受けた」

 中国の圧力で講演会が中止になった翌5日、郭氏は首都ワシントン市内で記者会見を開き、悔しさをにじませた。

 郭氏はこれまでにツイッターや動画投稿サイトのユーチューブなどで、中国最高指導部の王岐山・共産党中央規律検査委員会書記の親族による不正蓄財疑惑や米国内における中国のスパイ活動の様子などを暴露してきた。

 内部情報が次々と公開されたことに危機感を募らせた中国政府は、詐欺やマネーロンダリング(資金洗浄)などの疑いがあるとして国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)を通じて郭氏を国際手配。身の危険を感じた郭氏は先月6日に米国への亡命を申請していた。

 こうした中で予定されていたハドソン研究所での講演は、メディアのインタビュー以外で郭氏が米国で初めて公の前に姿を現す場だった。

 だが、講演前日になって同研究所のパソコンが上海からとみられるサイバー攻撃を受け、システムが一時ダウン。また米ニュースサイト、ワシントン・フリー・ビーコンによると、駐米中国大使館が同研究所に対して郭氏の講演会を中止するよう圧力をかける電話を複数回かけていたほか、講演会を開けば研究員の中国入国を禁止すると脅していた。

 ハドソン研究所の広報担当者は米メディアの取材に対して圧力に屈したわけではないと説明したが、保守系シンクタンクの同研究所でさえ郭氏の講演会を中止せざるを得なかったことに、関係者は大きな衝撃を受けている。

 一方、4月にはVOAが行った郭氏の生放送インタビューが、当初の予定だった3時間を大幅に下回り、1時間ほどで打ち切られる事件があった。

 ワシントン・タイムズ紙によると、放送前に中国大使館がVOAに対してインタビューをやめるよう要求。中国政府も、放送すればVOA中国特派員のビザを取り消すなどと脅迫していた。

 米政府系放送の内容に中国が介入していた事実が徐々に明らかになってきたことから、議会も調査に動きだしている。

 マルコ・ルビオ上院議員やエド・ロイス下院外交委員長らは、インタビューが途中でカットされた背景に外国からの介入や政治的動機があったかを調査するよう国務省の監察官に要求。VOAも民間調査官による独自の調査を始めた。

 郭氏は会見で、「ハドソン研究所での講演会が中止になったことで、中国の影響力が米社会やシンクタンクに及んでいることが裏付けられた」と強調。今後はシンクタンクやメディアへの圧力が強まることが予想されるとし、中国を批判する言論の自由が奪われることへの危惧を表明した。