運用近づく中国の衛星攻撃兵器
危機感強める米軍
ロシアや中国が全地球測位システム(GPS)の通信妨害を行う技術や衛星攻撃兵器(ASAT)の開発を急速に進めている。中国は数年以内にASATの運用を始めるとの見方もあり、遠隔地での軍事作戦を衛星システムに頼ることが多い米軍は危機感を強めている。(ワシントン・岩城喜之)
下院は「宇宙部隊」創設を可決
「米国の衛星システムは、最も脆弱(ぜいじゃく)で攻撃されやすい軍事資産の一つだ」
米シンクタンク、全米公共政策研究所は今月上旬に発表した報告書で、米国の衛星システムに対する外国の脅威が急速に高まっていることを強く警告した。
中国は2007年に気象衛星の破壊実験を成功させ、国防総省の関係者に衝撃を与えた過去がある。この時はスペースデブリ(宇宙ごみ)を大量に出したことで国際社会から強い批判を浴びたが、その後もデブリを出さない形の技術試験でASATの開発を進めてきた。
コーツ国家情報長官は5月に行われた上院情報委員会の公聴会で「中国が人工衛星の破壊実験を行ってから10年たち、人民解放軍のASAT運用が近づいている可能性もある」と指摘。ロシアについても「米国の人工衛星を狙ったレーザー兵器を開発している」と語った。
両国が衛星破壊技術の開発を推し進めるのは、有事の際に米軍の戦闘能力を低下させ、米国の社会・経済に混乱を与えることを狙っているためだ。専門家によると、中国は複数の衛星を同時に攻撃する能力も開発しており、「現在の脅威に対して米国の衛星防衛体制は十分でない」(ナショナル・インタレスト誌電子版)との指摘は多い。
一方、GPSの通信妨害も米国の大きな懸念になっている。今年6月には黒海で船舶約20隻の位置情報が大きくずれる事件が起こった。GPSの電波妨害を受けたとみられており、ロシアによる関与も疑われている。
米海軍の艦艇はGPSを暗号化しているため、簡単に通信妨害できないようになっているが、中露が妨害技術を急速に進歩させていることから、いつまでもセキュリティーが破られないとの保証はない。
北朝鮮も韓国側にGPS障害を引き起こす電波攻撃を仕掛けるなど、通信妨害の能力を向上させている。全米公共政策研究所は報告書で「北朝鮮の攻撃性を過小評価してはならない」と強調。今は地域的な危険にとどまっているが、「世界的な脅威になる可能性がある」と警鐘を鳴らした。
こうした衛星システムに対する安全保障上のリスクが増大しているにもかかわらず、これまでに米政府や議会はほとんど対策を講じてこなかった。
報告書は「政府と議会は数十年にわたって、米国の宇宙兵器配備やASAT能力の開発を拒んできた」と指摘。さらに「ロシアや中国、北朝鮮、イランには政治的な制約がなく、戦争が起これば(人工衛星を狙われる)米国が不利になる状況を作り出してしまった」と強調した。
ただ、これまでと違って拡大する脅威への対策が必要だとの認識は超党派のコンセンサスとなりつつある。下院は先月14日、共和党のマイク・ロジャース議員や民主党のジム・クーパー議員らが取りまとめた、「宇宙部隊」の創設を盛り込んだ2018会計年度国防権限法を可決した。
ロジャース氏は「米国は人工衛星に強く依存しており、中国やロシアは人工衛星を破壊すれば勝利できると考えている」と述べ、衛星の防衛や中露の動きを監視する独立した部隊が必要だと訴えている。






