リオ五輪から1年、財政危機と治安悪化「負の遺産」に苦しむ
インフラ再利用進まず
南米初の夏季五輪開催から1年、「リオのカーニバル」など南半球有数の観光都市として知られるリオデジャネイロが、深刻な犯罪問題と財政危機、五輪インフラの負の遺産に苦しんでいる。(サンパウロ・綾村 悟)
南米初の夏季五輪招致に成功した2009年、ブラジルは未曽有の好景気で高揚感にあふれていた。資源大国のブラジルでも沖合に深海油田を持つリオデジャネイロ(州・市)の未来は、とても明るいものに映っていた。
それから8年、ブラジルの資源ブームは中国経済の失速とともに色あせ、マイナス成長と未曽有の不景気に直面。五輪開催地のリオデジャネイロは、ブラジル各州の中でも最悪と言っていい財政状況に苦しんでいる。
リオ五輪の予算は当初の計画から大幅に増え、実行委員会は多くの負債を抱えたままだ。実行委員会は国際オリンピック委員会(IOC)に救済措置や債務削減などを求めているが、交渉が決裂した場合は、リオデジャネイロ州と市が負債を負担することになり、さらなる財政圧迫の要因となる。
リオデジャネイロ州の財政危機は、公務員に対する給料の遅配や人員削減、社会サービスの制限などに直結、特に治安対策では危機的な状況を生み出した。
リオデジャネイロ市では夏季五輪以後、対立する麻薬密売組織同士の抗争激化に加え、経済危機による盗難事件などの多発も重なって犯罪が急増、治安の立て直しが急務となっている。
凶悪犯罪の増加に伴って警官の殉職も増加しており、今年だけで90人以上の警官が犠牲となった。既に昨年の警官殉職数を上回っており、その多くが麻薬組織が巣窟とするファベーラ(貧民街)での職務中におけるものだ。
リオデジャネイロの警官とその家族ら数百人は、先月23日にデモを行い、装備の近代化や支援体制の強化などが治安維持と警官の安全確保に欠かせないと訴えた。
リオデジャネイロの警察当局が財政不足に苦しむ一方、麻薬密売組織は豊富な資金で自動小銃や手榴弾(りゅうだん)など豊富な装備でファベーラを支配下に置いており、一部のファベーラは警察さえ立ち入ることが容易でないほどだという。
このような状況を受けて、ブラジル政府は先月28日、国軍兵士など約1万人の治安要員をリオデジャネイロに投入すると発表、ブラジルを代表する観光都市の治安維持に向けて断固とした姿勢を示した。
しかし、リオデジャネイロが直面しているのは、治安問題だけではない。五輪開催のために投資した多くのインフラも効率的な運用や売却が進んでおらず、野ざらしとなっている施設が少なくない。
リオデジャネイロでは、五輪開催を前にして、ホテルの客室数が絶対的に不足していることが当初より問題となっていた。実際、五輪前の2014年に開催されたサッカー・ワールドカップ(W杯)では、宿泊施設が足りず、ホテルの値段が高騰、観戦に訪れたサッカーファンを苦しめた。
リオ五輪では、ホテル建設への大規模な投資の成果もあり、宿泊施設の供給は比較的スムーズに行われた。しかし、五輪後の観光客は想定していたような伸びを見せず、このままでは淘汰(とうた)されるホテルも出てくるものとみられている。
選手村として用意されたマンション群は、五輪後に高級マンションとして売り出される予定だったが、売却は一向に進んでいない。五輪公園も市民の利用や整備が進んでいないのが現状だ。
リオ五輪開催前は「インフラ整備はリオデジャネイロ市と住民に大きな利益をもたらす」と喧伝(けんでん)された。しかし、多額の投資を行ったインフラの再利用と治安問題も含め、リオ五輪は地元社会に多くの負の遺産となって覆いかぶさっているのが現状だ。






