中南米で影響力強める中国、パナマが台湾と断交

 世界第2位の経済大国となった中国。近年は台湾と国交のある国々への切り崩しを図っており、最近では中米の要衝パナマが台湾との断交を発表した。政府系ファンドによる援助など、経済力と政治力を生かした中国の存在感は中南米でますます強くなっている。(サンパウロ・綾村 悟)

ブラジルにも巨額の投資

 日本からほぼ地球の裏側に当たるブラジル最大の都市サンパウロ。世界有数の日系人口を抱える都市としても有名だが、そのサンパウロで長く「日系人街」として知られてきたのが「リベルダージ」だ。多くの日本食レストランや日系スーパー、商店などが立ち並び、ニューススタンドには日本語の現地新聞も売られている。

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台湾の援助で造られたパラグアイ・アスンシオン国立大学水産学部の養殖研究施設(綾村悟撮影)

 そのリベルダージにこの10年ほどで大きな変化があった。中国系移民とその資本の進出だ。中国系の商店が増え、日系人街は今や「東洋人街」と言ってもいいほど様相を大きく変えた。日系人街を代表するホテルが中国系資本に買収されそうになったこともあるほどだ。

 中国からブラジルへの投資が急増したのが、昨年8月まで続いた労働党政権時代。左派政権下で米国と距離を置き始めたブラジルに対して中国が急接近する中で、中国資本の進出も急増した。資源への投資や大豆など食糧の大量買い付けが進む中で、中国語ブームも起こった。

 近年では、2014年の習近平国家主席と15年の李克強首相によるブラジル訪問は大きな注目を集め、李首相が手土産として発表した500億㌦(約5兆5000億円)相当にも及ぶ投資ファンドの設立は、ブラジル社会に中国という国を印象付けるに十分だった。

 さらに、ブラジルと中国は先月、200億㌦(約2兆2000億円)相当のインフラ整備ファンドを共同で設立することに合意した。中国が75%を投資するファンドでは、ブラジル中西部と大西洋側の港湾地区を結ぶ鉄道建設を計画、実現すれば中国はブラジルの穀倉地帯からコストを抑えた輸入が可能になる。米国から多くのトウモロコシなどを輸入する中国にとっては、戦略的にも重要な投資だ。

 こうした中国系資本や移民の進出は、ブラジルだけではなく、中南米各国で広く見られる現象でもある。反米左派のベネズエラや左派政権時代のアルゼンチンと中国の密接な関係はよく知られたところだが、最近では、先月のパナマによる中国との国交開始が大きなニュースとなった。

 100年以上にわたってパナマと外交関係があった台湾は、パナマを地政学的にも重要な要衝と捉えて投資や援助を行い、昨年6月には蔡英文総統が緊密な関係を確認し合ったばかりだった。

 しかし、中国は台湾と外交関係がある国々の切り崩しを図っており、その中でもパナマは特に力を入れていた国の一つだった。中国資本を必要とするパナマと太平洋と大西洋を結ぶパナマ運河を影響下に置きたい中国の思惑が一致した形だ。

 パナマが台湾と断交したことにより、中南米・カリブ海諸国で現在、台湾と国交を結んでいるのは11カ国。その中でも南米で唯一台湾と国交があるパラグアイは、最後の砦(とりで)といってもいい存在だ。

 パラグアイには現在、中国本土からの本格的な投資はない。一方、パラグアイ各地で台湾の影響力を感じることは可能だ。パラグアイ最北の地、チャコ地方のバイア・ネグラ市(人口約2000人)は、その隔絶した環境から市自体が自家発電で電力を賄っている。その発電施設は台湾の援助によるものだ。また、パラグアイが現在、力を入れている魚の養殖でも、台湾の財政・技術援助が多く入っている。

 ただし、そのパラグアイでも、08年の大統領選挙で当選した左派系のルゴ前大統領は、大統領選挙時に「中国との国交樹立を検討すべきだ」と公言。当選後も台湾との関係を見直す発言をするなど、台湾とパラグアイの関係が危うくなった時期があった。

 中国の影響力と存在感が増す中南米。パラグアイも含めた今後の中国の動向が注目されている。