依然続く米国の「LGBT外交」

前政権から残る外交官が主導

 米国務省はオバマ前政権時代、同性愛者ら性的少数者(LGBT)の国際的な権利向上を外交政策の優先課題に位置付けたが、トランプ政権下でもその傾向が続いている。トランプ政権の人事が大幅に遅れていることで、前政権から残る外交官たちが「LGBT外交」を継続している。(編集委員・早川俊行)

テッド・オーシアス氏(右)

同性婚パートナーと結婚指輪を見せるテッド・オーシアス駐ベトナム米大使(右)(同大使のフェイスブックより)

 LGBTへの偏見を無くすことを訴える5月17日の「国際反ホモフォビアの日」に、東欧マケドニアの米大使館は、米国旗の下にLGBTを象徴するレインボーの旗を掲揚。2枚の旗がはためく写真は、同大使館の公式ツイッターに掲載された。

 ジェス・ベイリー駐マケドニア米大使は、オバマ前大統領に起用されたが、トランプ政権発足後も大使職を続けている。ベイリー氏はこれまでも、共産党を前身とするマケドニアの左派政党に肩入れしているとして批判を浴びてきた。レインボー旗の掲揚も、ベイリー氏のリベラルな価値観を反映するものだ。

 同じくオバマ氏に起用された同性愛者のテッド・オーシアス駐ベトナム大使は、国際反ホモフォビアの日に合わせ、国務省の公式ブログにコラムを執筆。オーシアス氏は「LGBTの平等を守ることは、国際的に人権を促進する米国のコミットメントの中心であり、米外交の心であり良心だ」とまで言い切っている。

 経済援助などを利用して他国にLGBTの権利拡大を迫るオバマ政権の「LGBT外交」は、途上国から強い反発を買ってきた。レインボー旗を掲げた在マケドニア米大使館の行為も、マケドニア国民からは歓迎されていないとみられる。

 マケドニアは世俗化が進む欧州では極めて保守色が強い。2015年の世論調査では、国民の89%が同性婚に反対。同年、国会は結婚を男女間のものと定義する憲法改正案を圧倒的大差で可決している。

 トランプ政権の発足でLGBTの権利拡大が米外交の前面に出ることはなくなった。それでも、国務省がオバマ政権時代の路線を継続しているのは、トランプ政権の人事が大幅に遅れ、前政権から残る職員が国務省で主導権を握っているためだ。

 マケドニア人ジャーナリストのツヴェティン・チリマノフ氏は「米外交官たちはまるでオバマ氏がまだ大統領であるかのように行動している」とし、「国務省人事の遅れはマケドニアにも深刻な影響を及ぼしている」と強い懸念を示した。

 米有力保守派団体「家庭調査協議会」のトニー・パーキンス会長は「トランプ大統領とティラーソン国務長官は、左翼運動のために納税者のお金を使うのを止め、より喫緊の外交課題に専念すべき時だ」と主張している。