「米国第一」の経済政策、米企業の競争力に悪影響も
トランプ米大統領は20日の就任演説で、「きょうから新たなビジョンがこの地を支配する。これからは米国第一の方針だけだ」と、米国第一主義を打ち出した。米国第一主義が最も顕著に具現化されるのは経済政策だ。
トランプ氏は演説で、米国の雇用、国境、富、夢を取り戻すと明言。「貿易、税制、移民、外交に関するあらゆる決定は、米国の労働者と家族の利益になるようにする」と強調した。その政策の原則として掲げたのは、「米国製品を買い、米国民を雇う」という二つのルールである。
就任式を境に一新したホワイトハウスのホームページは、米国第一のテーマとして6項目を掲げた。その半分はエネルギー、雇用・成長、貿易という経済分野だ。
エネルギー分野では、オバマ前政権の環境問題規制、構想を撤廃し、米国内の石油・ガス生産を拡大してゆく。雇用では、石油・ガス開発の歳入などを財源に、「道路や学校、橋梁(きょうりょう)などのインフラ」を再建し雇用創出する。
貿易では、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を明確に表明した。北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉へのコミットメントも明らかにしている。
カナダとメキシコが米労働者に公正な取り決めを拒むならばNAFTAからの離脱も厭(いと)わない。国内総生産(GDP)の額でTPP加入12カ国の6割を占める米国の離脱は、TPPを有名無実にしてしまう。米労働者の利益を最優先し、国際社会への否定的影響を全く顧みないトランプ政権の姿勢に対する国際社会の懸念は貿易問題に止(とど)まらない。
米大統領選ではいつも経済が最大の争点になる。今回の場合も、経済格差の拡大とそれに苦しむ白人中・低所得層の窮状、米製造業の衰退と雇用の海外流出などが最大の経済争点になり、それに強い関心を持つ白人ブルーカラーがトランプ大統領当選・就任の原動力になった。
20日のトランプ大統領就任演説は、専ら中・低所得層を念頭に置いた演説だった。トランプ氏は「ワシントンから国民に権力を取り戻す」と豪語したが、全米に広がる抗議運動に見られるように今や米国民自体がトランプ支持、反対に二分されている。トランプ氏が言う国民は、経済問題に関する限り白人ブルーカラーを指す。
トランプ氏は就任前から、「老朽化した工場が墓石のように散乱している」と形容したラストベルト(さび付いた工業地帯)の白人ブルーカラーへの利益誘導に努めてきた。メキシコでの米国向け自動車生産基盤を拡充しようとする日米欧の自動車企業を高率関税で脅し、デトロイトなどミシガン州への大型投資、雇用拡大の約束を引き出した。トランプ氏もこれを雇用創出の成果としてツイッターで誇っている。
こうした脅しによる米国内への利益誘導が長期的には国際市場における米企業の競争力を損ね、米経済にマイナスになることを懸念する経済専門家は少なくない。インターネットで世界がますますボーダーレス化する中で、トランプ氏の保護主義的政策がどこまで持続性を持てるのか。その答えはトランプ政権の経済・貿易政策の成果が示すことになる。
(ワシントン・久保田秀明)