米国第一主義と日本、同盟の本質直視する機会に
「米国第一主義」を掲げるドナルド・トランプ米大統領の就任を受け、日本では日米関係の先行きを悲観する見方が強い。トランプ氏が早速、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を決めたことも、その印象を一段と強くした。
通商分野では暗雲が漂うが、それでも米外交専門家の間では、全体としては日米の良好な関係は変わらない、あるいはもっと良くなるとの見方が少なくない。
欧州の同盟関係は、北大西洋条約機構(NATO)を「時代遅れ」と批判するトランプ氏との間できしみが生じ、アジアでも韓国は政情不安定、フィリピンはドゥテルテ大統領が反米発言を繰り返し、豪州も対中傾斜の懸念がある。つまり、米国にとって日本は、世界の同盟関係で「唯一のブライトスポット」(ロバート・カプラン新米国安全保障センター上級研究員)なのだ。
安倍晋三首相の積極的な同盟強化の取り組みは、米国で党派を超えて評価され、また、強大化する中国を抑止するには日本との協力が欠かせない。こうした現実を踏まえれば、トランプ政権も緊密な日米関係を維持・強化したいというのが本音だろう。
ペンシルベニア大学のアーサー・ウォルドロン教授は、トランプ政権下で日米関係は「今まで以上に良くなる」と主張。ジョージ・メイソン大学のコリン・デュエック教授も「日米にとって極めてダイナミックな時代になる可能性がある」との見通しを示す。
ただ、トランプ氏の米国第一主義が、日米同盟の根幹に重大な疑問を投げ掛けていることも否定できない。
レックス・ティラーソン次期国務長官が指名承認公聴会で、沖縄県・尖閣諸島に対する米国の防衛義務を確認したように、トランプ政権幹部は今後も「核の傘」を含め対日防衛義務を果たすと約束する可能性が高い。だが、実際に有事が起きた時、最終判断を下すのは最高司令官であるトランプ氏だ。米国の利益を最優先するトランプ氏が、他国の無人島を守るために米兵に血を流させたり、米国の都市が破壊されるリスクを負ってまで同盟国の代わりに核攻撃に踏み切るのか、極めて疑わしい。
トランプ氏に限らず、米大統領が米本土以外を守るために核兵器を使用することはあり得ない、と指摘するのはウォルドロン教授だ。同教授は「米国が日本を守るために血みどろの核戦争をするというのは幻想にすぎない」とまで言い切る。
トランプ氏の米国第一主義は衝撃を与えているが、国家の指導者が国益を最優先するのは当たり前のことでもある。トランプ氏が露骨に強調する国家の「本音」は、日本人に同盟の本質を直視する機会をもたらしているともいえる。
自民党の石破茂前地方創生担当相はしばしば、19世紀に英国の首相や外相を務めたパーマストン卿の「永遠の同盟国も永遠の敵もない。あるのは永遠の国益のみ」という言葉を引き合いに出すが、これこそ同盟の冷徹な現実だろう。
日本が「トランプ時代」を生き抜くために求められるのは、米国との同盟強化に取り組みつつも、自国の利益や安全は自分で守る気概と覚悟だ。
(ワシントン・早川俊行)