対中国・北朝鮮政策、制裁と軍事プレゼンス強化へ
「アジア・ピボット(基軸移動)」「リバランス(再均衡)」などの政策を打ち出したオバマ前大統領だったが、ここ8年で東アジアの安全保障環境は一段と悪化した。
この状況にワシントン・ポスト紙は「中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発を防げなかったことを考えると、オバマ政権のアジア政策が成功したとは言い難い」との評価を下している。
米保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ政策研究所のマイケル・オースリン日本部長も「第2次世界大戦以降、アジアと欧州における米国の安全保障政策は、周辺国を脅かす可能性のある覇権国家の出現を防ぐことを目的としてきた」と説明した上で「(覇権を目指す)中国の海洋進出に対するオバマ氏のあいまいな対応が、航行の自由を台無しにした」と厳しく批判する。
大統領上級顧問・首席戦略官のスティーブン・バノン氏をはじめ、トランプ氏周辺は「オバマ政権のアジア戦略が失敗に終わったのは、軍事プレゼンスが弱かったからだ」との見方でほぼ一致している。
このためトランプ政権はオバマ氏を反面教師にした対中政策、つまり、アジア太平洋地域で軍事プレゼンスを強化する方向に進む公算が大きい。
一方、北朝鮮の核・ミサイル開発に対する戦略はどうか。具体的な政策は明らかになっていないが、トランプ氏は北朝鮮に影響力を持つ中国に圧力をかけることを示唆している。ジェームズ・マティス国防長官は北朝鮮の核関連施設への先制攻撃について「排除しない」とも語った。いずれも前政権の取り組みを明確に否定した形で、北朝鮮の態度が変わるまで待つ「戦略的忍耐」政策は覆されるとみられる。
米メディアによると、トランプ政権は北朝鮮との武器取引や金正恩政権を支援する中国企業に対する制裁も検討している。
これに対してオバマ政権は長い間、中国企業に対する制裁を科してこなかった。ようやく昨年9月に制裁を決めたものの、わずか1社にとどまったことから効果は疑問視されている。
北朝鮮に関する米国独自の制裁としては、2005年にマカオの金融機関バンコ・デルタ・アジア(BDA)を取引禁止対象に指定した例が有名だ。北朝鮮の資金が凍結されたほか、米金融機関へアクセスできなくなることを危惧した中国系の銀行が次々と北朝鮮との取引を止めたことから、大きな効果を挙げた。
「北朝鮮の核・ミサイル開発を凍結できるのは、金正恩政権に危機をもたらす制裁だけ」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)との見方もあり、トランプ政権が効果的な制裁を科せば、北朝鮮問題で中国を動かすことにつながる可能性もある。
国家通商会議トップのピーター・ナバロ氏は新政権のアジア政策について「米軍を再建させ、中国による周辺諸国への圧力に対抗する」方向に進めると強調している。「不透明感」の強いトランプ外交だが、アジア太平洋地域の軍事バランスに暗い影を落とした前政権から転換することだけは間違いない。
(ワシントン・岩城喜之)





