トランプ政権始動、「予想外」の保守路線
「第2のレーガン」となるか
ドナルド・トランプ新米大統領の就任でついに幕を開けた「トランプ時代」の行方を展望する。(ワシントン・早川俊行)
トランプ氏が大統領選で事前予想を覆し勝利したことは大きな衝撃だったが、当選後に「第2のサプライズ」があった。2009年まで民主党に属し、かつてはリベラル寄りだったトランプ氏が、保守派の人材を集め、強力な保守政権を築こうとしていることだ。
トランプ氏が政権の閣僚や要職に選んだのは、保守派の中でも強い改革志向を持った人物が目立つ。例えば、教育長官には「スクールチョイス(学校選択)」を推進し、教員組合と戦ってきたベッツィ・デボス氏を指名。厚生長官には、医療保険制度改革法(オバマケア)の撤廃を強く訴え、共和党内で代案の設計を主導してきたトム・プライス下院議員を起用した。
また、次期環境保護局長官のスコット・プルイット・オクラホマ州司法長官は、オバマ政権の過剰な環境規制に反対し、同局を相手取って14回も訴訟を起こした経歴を持つ。住宅都市開発長官に起用された黒人の元神経外科医ベン・カーソン氏は、貧困家庭に育ちながら自らの努力で世界的名医となった体験から、自助を妨げる政府の福祉政策を毛嫌いする「小さな政府」の信奉者だ。
大統領選では、明確な政治哲学を持たないトランプ氏に対する保守派の不信感は極めて強かった。ところが、保守的な人材を次々に政権入りさせるトランプ氏の「予想外」(米メディア)の人事は、保守派知識層を大喜びさせており、米最大の保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のジム・デミント所長に「舞い上がりすぎないようにしている」と言わしめるほどだ。
トランプ氏はなぜ「保守傾斜」したのか。これについて、ある共和党関係者は「改革を断行しようという表れではないか」とみる。つまり、トランプ氏本人は今も保守思想の確たる信奉者ではないが、「米国を再び偉大にする」には、8年に及ぶオバマ政権のリベラル路線を転換し、大胆な改革を実行する必要があり、それが結果的に強力な保守路線につながっている、との見方である。
一方、外交政策はトランプ氏の一貫しない言動のせいで不透明な要素が多い。だが、一つだけはっきりしているのは、オバマ政権下の大幅な国防費削減で戦力が低下した米軍を再建し、レーガン元大統領と同じ「力による平和」を志向していることだ。
「トランプ氏はレーガン氏以来、最も保守的な大統領になる」。早い段階からトランプ氏を支持していた伝説的な保守派活動家、故フィリス・シュラフリー女史は、昨年9月に92歳で他界した翌日に出版された最後の著書でこう予言した。
ニュート・ギングリッチ元下院議長も「トランプ氏は思想的、伝統的な保守派ではないが、過去100年間で最も反左翼の政治指導者となる可能性がある」とし、「1932年のフランクリン・ルーズベルト大統領から始まった84年に及ぶ左翼の支配を終わらせる好機だ」と主張する。
リベラルな主要メディアは相変わらずトランプ氏を激しく批判しているが、保守派内にはトランプ氏を「第2のレーガン」と期待する見方があることを見落としてはならない。