退任で見えた「真のオバマ氏」
機密暴露の米兵に減刑
イスラエル非難決議に賛同
オバマ大統領は静かに去ることはなかった。騒々しい最後だったが、それも、静かに入ってくることをよしとしない後継者と、オバマ氏自身のいつまでも続く情緒的なさよならツアーにかき消されてしまった。だが、オバマ氏が最後にしたことは、ノスタルジックでも、センチメンタルでもなかった。その中の二つはまさにショッキングだった。
しかし、そんなことは分かっていたはずだ。2015年のホワイトハウス特派員晩餐(ばんさん)会で、やっておきたいことのリストがあるかどうかについて「リストに入れたいことはある」と冗談を言っていた。
ふたを開けてみると、あれは冗談ではなかった。近年で最大の反逆者チェルシー・マニング受刑者を減刑した。受け入れ難いが、オバマ氏は最初からそのつもりだった。兵士だったマニングは、50万件近くの軍の報告書、25万件の国務省の報告書を盗み出し、ウィキリークスで公開した。オバマ氏はそのマニングの刑を28年減刑した。
このニュースには驚いた。軍事機密は命が関わることが多く、イラクとアフガニスタンの二つの戦線の米兵だけでなく、大変な危険を冒してひそかに米国を支援してきた地元住民らの命を危険にさらすからだ。マニングの報告書の公開後、タリバンは、報告書から米国に協力したと判断した人々の「殺害を活発化させた」(情報機関からの情報としてFOXニュースが報じた)。
さらに米国は、世界各地で目に見えない紛争に関与している。地元住民は、米国を支援するか、米国の敵を支援するかを選ばなければならなくなる。国を裏切って情報をリークした人物を許す側を誰が選ぶだろう。
リークという言葉は正確ではない。リークには、高官らの不正を暴くためにウッドワード氏やバーンスタイン氏に情報を提供する内部告発のような響きがある。マニングのケースはこれとは全く違う。米国の兵士、同盟国、利益を傷つけることが分かっている、安全保障に関する大量の機密情報を見境もなく暴露した。
オバマ氏は、マニングの刑期35年は長過ぎると考えた。実際はその逆だ。反逆罪で死刑になる可能性があった。事件から7年で自由の身になる。
この恩赦の異様さを際立たせているのは、オバマ氏の偽善ぶりだ。オバマ氏は、何週間もの間、ウィキリークスが、盗み出された資料、電子メールを選挙戦中に公表したことがどれほど有害だったかを声高に訴えてきた。すぐに調査結果を報告するよう要求した。ロシアに制裁を科した。米国の政治プロセスがいかに優れているかを誇った。
何を誇ることがあるだろう。公表されたのは何だったか。選対本部長の私的な電子メールと民主党全国委員会のチャットだ。陣営のうわさ話、陰口、醜態、皮肉などだ。どこにでもあるものであり、ばつは悪いが危険ではない。安全保障に関する機密も、機密資料も、誰かをけがさせることもない。ただの皮肉や批判だ。
退任間近の驚くべき出来事がもう一つある。1カ月前、米国はこの半世紀近くで初めて、重要な国連安保理決議でイスラエルを見捨てた。非難決議が承認されたことで、今後、長期にわたってイスラエルとその国民を苦しめることになる。8年間も安心させておいて、イスラエルに長期的なダメージを与える最後の機会をしっかりものにした。オバマ氏自身も、後継となるはずだったクリントン氏にも説明責任はない。国連決議を撤回する権限も米国にはない。
国連大使を務め、その後、民主党の有力上院議員となったダニエル・パトリック・モイニハン氏はかつて、反米、反民主主義が満ちる国連で米国は、反対勢力に毅然(きぜん)と立ち向かうべきであり、お先棒を担いではならないと熱く訴えた。オバマ氏は、そのお先棒を担いでしまった。
なぜだろう。国際社会の左派の歓心を買うためか。オバマ氏は比較的若い55歳で退任した。今後は国際的な舞台で指導者として活躍することだろう。国連(事務総長)だろうか。国際的な人権団体だろうか。だが、イスラエルにいわれのない攻撃を仕掛けること、マニングとウィキリークスに対する態度の急変、これこそがオバマ氏の真骨頂だ。いまだ改悛(かいしゅん)しないプエルトリコ人テロリスト、オスカル・ロペス・リベラの釈放も、任期残り3日でやってのけた。
しかし、それ以上に納得のいく説明がある。あれこれ考えた上のことではなく、オバマ氏自身の正当性をめぐる問題ということだ。オバマ氏はオバマ氏だったということだ。退任時も就任時と同様、左派だった。もともと持っていた急進的な本性を理性と規律で抑えていた。2016年11月9日で、この抑制は必要なくなった。
私たちが見たのは、オバマ氏の真の姿だった。これからさらに、真のオバマ氏を目にすることになる。
(1月20日)