米で大麻合法化が加速
「200億㌦産業」か「有害薬物拡大」か
昨年11月の米大統領選では大麻(マリフアナ)合法化がさらに一歩進んだ。現在、米国では8州で娯楽用大麻が、28州で医療用大麻が合法化されている。大麻をめぐっては健康や社会に有害との懸念がある半面、オバマ政権のリベラルな社会政策が大麻容認の風潮を生んだことは否定できない。トランプ次期米大統領の大麻政策はまだ不明瞭だ。
(ワシントン・久保田秀明)
不明瞭なトランプ氏の政策
司法長官には反対派を指名
昨年11月8日の米大統領選投票日には、全米9州で大麻合法化に関する住民投票が実施された。この結果、娯楽用の大麻が、カリフォルニア州、マサチューセッツ州、ネバダ州、メーン州の4州で、医療用の大麻が、フロリダ州、アーカンソー州、モンタナ州、ノースダコタ州の4州で新たに承認された。娯楽用の大麻に関しては、過去4年間にすでにコロラド州、ワシントン州、オレゴン州、アラスカ州の4州とワシントンDCで合法化されていたから、8州と首都で解禁されたことになる。また医療用大麻に関しては、全米50州の過半数を超える28州で合法化された。
州レベルでは大麻の合法化が確実に進んでいるが、米国の連邦政府は依然として、娯楽用、医療用を問わず、大麻を禁止している。連邦規制薬物法で、大麻はコカイン、ヘロインなどと同じく依存症を生み出す有害な薬物として、カテゴリー1に分類され、厳しい規制対象になっている。
米国のギャラップ世論調査は1960年代から米国民の大麻合法化に関する態度を調査してきた。60年代に米国民が大麻合法化を支持していた割合はわずか12%にすぎない。それが70年代から90年代にかけて20%台へと増え、2000年には30%を超えた。過去10年間に大麻合法化への支持がさらに増え続け、昨年10月12日の調査では、60%が大麻合法化を支持するに至っている。
その背景には、米欧の医学界で、大麻ががん患者への化学療法の有害な効果を和らげるといった研究結果が公表されたことが挙げられる。米国では1990年代後半から医療用大麻の合法化が一部州で進んでいった。しかし娯楽用大麻の合法化が始まったのは、オバマ政権下だ。オバマ大統領は、妊娠中絶奨励、同性婚奨励など個人が自己の欲望を追求する権利を重視するリベラルな社会政策を推進した。この結果、大麻についても個人が欲望に従ってそれを使用するのを奨励する風潮が強まったことは否めない。エリック・ホルダー司法長官(当時)は2009年に、連邦政府は州レベルでの個人の大麻使用を摘発するのに労力を費やすことはしないという方針を発表した。これが、全国的に大麻をタブー視する見方を一挙に弱めたことは確かだ。それ以降、大麻合法化の波は、医療用から娯楽用へ一気に波及してゆく。
昨年の米大統領選で民主党候補だったヒラリー・クリントン氏らは、大麻解禁の方向で連邦規制薬物法を修正することを主張している。大麻に関しては、長期的使用の影響を含め未解明なことが多い。連邦での大麻解禁に向けてさらに研究を進めるには、米麻薬取締局(DEA)、米食品医薬品局(FDA)、国立薬物乱用研究所(NIDA)などの連邦機関からの承認が必要だ。NIDAは、大麻は長期的に使用すれば、脳の発達に悪影響を及ぼし、判断力、思考能力などを低下させるという見解を示している。DEAも昨年8月に、大麻に対する連邦法上の規制を緩めるつもりはないとの立場を明らかにした。DEAが大麻規制緩和に反対する理由の一つは、大麻がヘロイン、コカインなど有害度が高い規制薬物使用へと移行する入り口になっているという事実だ。大麻使用が拡大すれば、過剰使用による死や麻薬犯罪の原因になるヘロイン、コカインの拡大につながりかねない。
州政府の多くが大麻解禁に傾いている最大の理由は、経済的効果への期待だ。12年に娯楽用大麻が合法化されたコロラド州は、大麻産業から年間1億㌦を超える新たな税収を得ている。米国の大麻産業は20年には200億㌦を超える規模に達すると予想され、それに伴い雇用も増大する。
こういう中で、トランプ次期米大統領の大麻合法化への姿勢が問われている。共和党保守派は大麻合法化には基本的には反対で、トランプ氏は大麻合法化に反対するジェフ・セッションズ上院議員を司法長官に指名した。このことから、大麻合法化には懐疑的だともみられている。ただ、国内産業、雇用の拡大を重視するトランプ氏は大麻合法化の流れに迎合せざるを得ないとの見方もある。






