プロ選手搭乗機墜落事故 「サッカー王国」に衝撃

特報’16

シャペコ市民の「夢絶たれる」
追悼と支援の輪広がる

 ブラジルのサッカー1部シャペコエンセの選手と報道関係者ら77人を乗せた飛行機が、コロンビアのメデジン近郊で墜落した事故から一夜明けた29日、強豪クラブを襲った悲劇に対する追悼と支援の輪がブラジル国内に広がった。(サンパウロ・綾村 悟)

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9日、コロンビア中部メデジン近郊のチャーター機の墜落現場で作業に当たる救助隊員ら=地元警察当局提供(EPA=時事)

 事故機には、J1神戸での監督経験があるカイオ・ジュニオール監督を含む選手・スタッフらとメディア関係者、乗務員が乗っていた。現地当局の救助活動にもかかわらず、これまでに71人の死亡と6人の生存が確認された。搭乗名簿にあった4人は書類の不備などで搭乗していなかった。墜落の原因は調査中だが、ブラックボックスは既に回収されており、死亡した操縦士からは電気系統の不具合を伝える緊急通報が伝えられていたという。

 生存者の内訳は、ゴールキーパーを含む選手3人に乗務員2人、報道関係者が1人。ゴールキーパーは、右足を切断する手術を受けた。

 「サッカー王国ブラジル」の頂点に立つ全国1部所属クラブの監督、主要選手、スタッフのほぼ全員が犠牲となるブラジルサッカー史上類を見ない事故は、社会に大きな衝撃を与えた。スポーツ報道で有名なブラジル人記者も犠牲となっている。

 ブラジルサッカー協会は7日間の服喪を発表、今後の試合予定を一時凍結した。また、テメル大統領やチッチ・ブラジル代表監督、「サッカーの王様」ペレ氏など多くの著名人が追悼の意を表明している。

 事故を受けて、シャペコエンセの本拠地、南部サンタカタリーナ州シャペコ市は30日間の服喪を決定(ブラジル政府は3日間の服喪を発表)。29日の朝早くからチームの本拠地にサポーターや市民らが集まり、追悼の祈りをささげている。

 シャペコエンセは、1973年に人口20万人の同市を本拠地として創設されたクラブ。現在のリーグ制度でブラジル全国1部に昇格したのは2014年が初めてだ。かつては資金的に苦しい時代があり、練習場やトレーニング施設を欠いたり、クラブ消滅の危機に見舞われたりしたこともあった。

 それでも、今年はコリンチャンスやサントスなど世界に名だたる強豪が集う1部リーグで10位と善戦。さらには「南米第2のタイトル」とされるコパ・スダメリカーナ(南米杯)の決勝にまで残り、「シャペコエンセの奇跡」として、ブラジル勢による久々のタイトル獲得に大きな期待がかかっていた。しかし、墜落事故は「シャペコ市民全ての夢が絶たれた」(チーム関係者)事態となった。

 一方、ブラジルのサッカー界からは、シャペコエンセに対する支援の輪が広がっている。コリンチャンスやパルメイラス、サントスなど主要4クラブは、連名でブラジルサッカー協会に対し、向こう3年間は成績にかかわらず、シャペコエンセが2部落ちの対象とならないように特別措置を求めた。さらに、複数の国内チームからは、シャペコエンセに向こう1年間、選手を無償でレンタルする用意があることも打診された。

 また、事故があったメデジンでシャペコエンセと南米杯の決勝戦を行う予定だったアトレチコ・ナシオナル(コロンビア)は、今年の優勝タイトルをシャペコエンセに与えるよう、南米サッカー協会に求めている。

 サッカー関係者が、飛行機事故で犠牲となる事例は過去にもあるが、今回のように主要クラブの選手らがほぼ全員犠牲となる事故はほとんど例がない。

 ブラジルは現在、長引く不況と不正政治資金による政治混乱の只中(ただなか)にあり、経済・社会共に立て直しを図る途上にある。今回の事故は「サッカー王国」ブラジルの団結力を内外に示す機会となっている。