南米初の五輪開催、治安維持に威信かけるブラジル

 ブラジルは夏季五輪パラリンピック開催を前に、国家の威信を懸けて治安維持対策に取り組んでいる。とりわけフランス・ニースでのトラック・テロを受け警備体制を強化している。(サンパウロ・綾村 悟)

国軍ら要員8万5000人投入

仏ニースでのテロ受け警備体制強化

 南米初開催のリオデジャネイロ五輪パラリンピックに絡み注目を集めているアプリが幾つかある。一つは、先行展開した米国などで大ブームを引き起こしている「ポケモンGO」だ。リオデジャネイロのパエス市長が、自らのフェイスブックで「五輪開催前にブラジルで配信を」と任天堂に呼び掛け、短時間で数千ものコメントが届くほどの反響を呼んだ。

800-1

五輪に備えた空挺特殊部隊の訓練を視察するユングマン国防相= Tomaz Siva/Abr

 一方、今月6日にリオ市限定の情報を提供しながら、最初の1週間で1万5000を超えるダウンロードを記録したアプリがある。リオ市内において、いつどこで銃撃事件が発生したかを通報、開示する「Fogo Cruzado(銃撃戦)」と名付けられたアプリだ。

 同アプリは、ブラジル人ジャーナリストのセシリア・オリヴェイラさんが発案したもの。リオの新聞や警察の公式発表を調べていくうちに、連日、数多くの銃撃事件が発生していることに驚いたことがアプリ開発のきっかけとなったという。

 同氏によると、アプリ公開後の最初の1週間で250件以上の銃撃事件に関する情報が寄せられ、24人の死者と20人の負傷者が報告された。このうち警察が公開した銃撃事件に関する情報はこのうちの2割近くにすぎなかった。アプリが記録した「1時間に1・5件の銃撃事件が発生」しているリオの現状は、銃撃事件が発生した場所がファベーラなどの一部地域に集中しているという統計はあるものの、想像を超えるものだ。

800-2

検問強化されたリオデジャネイロ市内= Fernando Frazao/Abr

 こうした中、ブラジル政府と現地当局は、五輪開催期間中に選手や関係者、50万人とも想定される世界から集まってくる観光客らが犯罪に巻き込まれないように特別枠の政府予算で、国軍兵士と特殊部隊、警官ら8万5000人をリオの治安維持に投入。これは、ロンドン五輪の倍に当たる治安要員の数だ。

 ブラジル政府がいま一番神経をとがらせているのが、テロ対策だ。

 リオ五輪では当初、ブラジル国内でこれまでにテロが発生した事案がないことや、イスラム過激派の活発な動きが見受けられないことから、実際に五輪開催中にテロが発生する可能性は低いとみられてきた。

 しかし、最近になって、フランスの情報局が、リオ五輪においてフランス選手団を対象としたテロが計画されていたという情報を持っていたことが発覚。ブラジル政府は、近日中にも、フランス代表団に対するテロ計画を含む最新のテロ組織等に関する情報を得るために、ブラジル情報庁の関係者などをフランスに派遣する予定だ。

800-3

セキュリティー強化のために長蛇の列ができたブラジリア国際空港= Jose Cruz/Abr

 ブラジル治安当局は今月15日、ニースのテロ事件を受けた警備体制の強化を発表、特にニースで発生したトラックを利用した事件を模倣するような「一匹狼型」のテロを警戒している。

 すでに、治安当局は、リオデジャネイロ市内において五輪期間中のトラック等大型車両の通行規制を検討、検問を強化し、テロ発生時の被害を防ぐために道路上の障害物を増やす予定だという。

 国内の主要空港では、今週初めから厳しいセキュリティーチェックが採用されており、徹底した身体・荷物検査のために、搭乗前の検査を待つ長蛇の列が果てしなく続いているほどだ。

 また、16日にはテロ発生を想定した大規模な訓練も実施、特殊部隊がテロ犯を制圧する様子が公開された。

 リオデジャネイロやサンパウロの日系団体は、女子マラソンなどの競技に関して、大規模な応援団を派遣する予定だったが、集団での応援がテロの標的となることを懸念、応援団派遣を断念する事態となった。