米乱射テロ、過激思想による凶行を許すな
米フロリダ州オーランドのナイトクラブでの銃乱射事件は、100人以上の死傷者を出し、銃乱射としては米史上最悪の被害となった。
事件は、国内で育った移民系の若者が他国の過激思想に影響を受けて破壊活動を起こす「ホームグロウン(国産)テロ」とみられている。
ISに忠誠誓う発言
射殺された容疑者はアフガニスタン出身の移民の両親を持つ米国市民で、過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う発言をしていた。もっとも、ISなど外国の過激派組織と接触した形跡は、現在のところ見つかっていない。
容疑者は自動小銃を使用して事件を起こした。米大統領選で民主党の指名獲得が確実なヒラリー・クリントン前国務長官は、声明で「今回使われたような銃がテロリストや犯罪者の手に渡らないようにする必要がある」「戦争の兵器が街に存在する意味はない」とし、銃規制の強化を訴えた。
だが、銃による自衛は土着のインディアンと戦って国土を開拓してきた米社会の歴史と伝統に根差したものであり、銃の所持を規制するのは容易ではない。中間案として、連邦捜査局(FBI)のデータベースなどを基にテロに関係する可能性がある人物には販売しないといった工夫が望まれる。
さらに問題は「治安強化のためには個人の武器よりも警察力を強化せよ」との意見には「警察国家あるいは全体主義国家に傾く危険がある」として米社会では反対論が強いことだ。米憲法修正2条が「武装の権利」を保障していることも銃規制の大きな障壁となっている。
しかし、殺人や自殺を含め年間3万人以上が銃により死亡している。米国は何らかの規制を考慮すべきだ。
今回は同性愛者が多数集まるナイトクラブが狙われた。犯人はイスラム教徒のようだが、イスラム社会では同性愛者はアラーの教えに反するものとして、同性愛者に対する拒否反応が非常に強い。
そのことが容疑者の行動に影響したと考えられる。その点で今回の犯罪には宗教的背景があったという。
オバマ米大統領が事件をヘイトクライム(憎悪犯罪)と断じたのは、犯行の背景として、容疑者が日ごろから同性愛者への憎悪を公言していたことが注目されたからだ。
宗教上の信念に基づいて同性愛を認めないこと自体は尊重されるべきである。だが同性愛者が嫌いだからといって、無差別に殺傷することは決して許されない。
その点、事件は移民と多様な宗教からなる米社会の傷口をのぞかせたと言えよう。今回は、アフガン系米国人として米社会で疎外されてきた犯人が、性的少数者を標的として選び、銃乱射事件を起こした。
宗教的寛容を忘れるな
この事件でイスラム教徒との宗教対立を煽(あお)れば、テロリスト予備軍を増やすだけだ。米社会の魅力は、さまざまな宗教を受け入れてきた寛容さであり、それが「米国らしさ」であることを忘れてはならない。