トイレ・更衣室使用「望む性で」、オバマ米政権が公立校に通達

「子供を政治利用」と保守派反発

 オバマ米政権がこのほど、全米の公立学校に対し、体と心の性が一致しない「トランスジェンダー」の児童・生徒に、本人が望む性別のトイレや施設を使用させることを指示する通達を出した。通達に従えば、女子生徒が身体的には男である生徒と更衣室やシャワーまで共用しなければならなくなる。子供たちのプライバシーを犠牲にしてリベラルな政策を押し付けるオバマ政権に対し、保守派・共和党から激しい反発が起きている。(ワシントン・早川俊行)

 オバマ政権が通達の根拠にしているのが、1972年成立の教育改正法第9編だ。同編は、連邦政府が財政支援する教育活動で「性別」に基づく差別を禁じているが、オバマ政権はこれを「ジェンダー・アイデンティティー(性自認)」も含まれると一方的に解釈し、トランスジェンダーの生徒に対する差別は許されないと主張している。

ジョン・キング長官

全米の公立学校に通達を出した教育省のジョン・キング長官(UPI)

 だが、保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のライアン・アンダーソン上級研究員は「法律が成立した当時、性別が性自認を意味するとは誰も考えていなかった。当時がそうなら、今もそうだ」と述べ、オバマ政権の行為は「法律の不当な書き換え」だと批判する。

 通達にはそもそも、トランスジェンダーの明確な定義がない。通達は「トランスジェンダーの生徒に医学的診断を求める必要はない」としており、医師から性同一性障害と診断されなくても、生徒が自らをトランスジェンダーだと言うなら、学校側はこれを尊重しなければならない。いわば自己申告制であり、異性のトイレや更衣室を覗(のぞ)くために悪用される可能性も否定できない。

 トランスジェンダーの生徒に対する配慮と他の生徒のプライバシー保護を両立させるために、個室トイレを設置するなど、地域や学校にケース・バイ・ケースで対処させるべきだというのが保守派・共和党の主張だ。だが、オバマ政権の通達は、そうした措置は認めず、あくまで本人が望む性別の施設を使用させるよう、一律の方針を押し付けている。

 しかも、連邦政府の方針に従わなければ、補助金を打ち切る可能性を示唆していることから、「各地の学校をいじめてオバマ政権の政策に服従させようとする試み」(共和党のダイアン・ブラック下院議員)だと猛反発を招いている。

 テキサス州のダン・パトリック副知事は「われわれは脅しに屈しない。子供たちを連邦政府に売り渡すことはしない」と、通達には従わないことを明言。保守派団体「米国を憂慮する女性たち」のペニー・ナンス会長は、「左翼は常に社会的リエンジニアリングの目標を実現するために子供たちを利用する」と、教育現場を政治利用するオバマ政権を批判した。

 一方、小児科医団体「米国小児科医大学」は今年3月、トランスジェンダーの子供たちにホルモン投与や手術を受けることは正常で健康的なことだと信じ込ませることは「虐待」だとする声明を発表した。

 声明は、体と心の性が一致しないのは精神障害であるとした上で、これを患う男子の98%、女子の88%は思春期を過ぎると、自然に生物学上の性を受け入れるようになると指摘。教育現場で体と心の性の不一致を正常なことと認めることは、より多くの子供に、体に悪影響を及ぼす恐れのあるホルモン療法や不要な手術を受けさせることにつながると警告している。