19日から国連麻薬特別総会 新たな対策の方向性を模索

 国連麻薬特別総会が今月19日から3日間、ニューヨークの国連本部で開催される。過去の国際麻薬対策は、麻薬生産や密輸に対する取り締まり、刑罰が中心になってきた。それがいま、大きな転換を迫られている。国連特別総会は転換の方向性を模索する場だ。
(ワシントン・久保田秀明)

供給摘発から保健重視へ 欧米

テロ対策で刑罰中心維持 中東アジア

 国連麻薬特別総会は今回、18年ぶりに開かれる。前回の特別総会は1998年に開催され、米仏など31カ国の首脳を含む153カ国代表が出席した。98年総会では、麻薬供給抑制だけでなく、需要削減対策を柱にすることを合意した。総会は、コカ、ケシ、マリフアナ(大麻)の不正薬物作物の栽培撲滅を含む2008年までの麻薬撲滅のためのグローバル戦略を打ち出した。

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ホワイトハウス前でマリフアナ合法化を訴えるグループ。オバマ大統領に逮捕の中止と違反者への恩赦、医療用マリフアナへのアクセス拡大などを求めている=4月2日、ワシントンDC(UPI)

 戦後の麻薬対策の基礎になってきたのは、1961年に採択された「麻薬に関する単一条約」(麻薬単一条約)である。国際連盟による万国阿片条約を第2次世界大戦後、国連が引き継ぐ形で締結された条約だ。ヘロイン、阿片、コカイン、マリフアナなど106種を規制薬物に指定し、その生産、供給を禁止または規制する。同条約採択以降、覚醒剤などが新たな懸念薬物になり、1971年に向精神薬に関する条約が追加で制定された。

 これらの条約とそれに基づく対策は、供給の摘発、刑罰を中心にしてきた。米国は麻薬においても、世界の警察官の役割を果たした。麻薬単一条約採択から50年以上が経過するが、条約に基づく刑罰中心の取り締まりは成功していない。厳しい麻薬規制にもかかわらず、麻薬消費量は増大し続け、巨大な闇市場を生み、世界各地で麻薬が武器と結びついて暴力犯罪が急増した。

 麻薬単一条約制定の50周年に当たる2011年には、元大統領など22人の世界的指導者から構成される薬物政策国際委員会が、過去50年間の国際麻薬対策を批判する報告書を出した。報告書は、「国際的な麻薬戦争は、世界中の人々、社会に破壊的影響を与え、失敗した」と結論している。

 今月の国連麻薬特別総会を前に、麻薬問題はさらに大きく変化している。

 まず、米国は国内で麻薬規制が崩れ始め、もはや世界の麻薬警察の役割を果たすことが難しくなっている。麻薬単一条約は、マリフアナにも極めて厳しい規制を課す。米国では1970年代には年間100万人以上がマリフアナ密売、所持、使用で逮捕された。しかし米国では現在、23州で医療用マリフアナの売買、使用が合法化され、別の16州が医療用マリフアナ解禁を検討中だ。コロラド州、ワシントン州、オレゴン州、アラスカ州の4州とコロンビア特別区では、娯楽用マリフアナの所持、使用が合法化されている。さらに13の州が娯楽用マリフアナの合法化を検討中である。

 米国は連邦政府レベルではマリフアナを含む麻薬が禁止されているので、さまざまな矛盾が表面化している。州レベルのマリフアナ合法化の流れに乗って、マリフアナ産業が飛躍的に成長しており、2020年までにはマリフアナの売上が200億㌦を超えると予想される。コロラド州でもマリフアナ販売ですでに約2500社が認可され、年間売上が10億㌦を超えているが、連邦法の影響で業者は顧客からクレジットカードを受け付けることができない。このため現金取引を余儀なくされている。

 米国では他の麻薬への規制も緩和あるいは撤廃を求める動きが強まっている。麻薬の規制よりも、治療、リハビリなどハームリダクション(麻薬の健康上への害を緩和する保健衛生アプローチ)が麻薬対策の中心になりつつある。

 戦後の麻薬対策を主導してきた米国の現実は、麻薬単一条約に合致しなくなっているのだ。米国の支援を受けて軍、警察による麻薬組織との戦いを推進し、麻薬暴力で多くの死者を出してきた南米諸国も、現行の国際麻薬対策の枠組みを見直している。ボリビアはコカ葉の咀嚼(そしゃく)を合法化し、ウルグアイはマリフアナの娯楽使用を解禁した。欧州連合(EU)はハームリダクションの施策では米国より進んでおり、刑罰より治療重視になっている。

 半面、アジア、中東では、テロと麻薬が結びつき、麻薬がテロ組織の重要な財源になっていることもあり、従来の刑罰中心の麻薬対策は維持したい意向が強い。

 麻薬単一条約のような単一のアプローチを全世界に適用するのはもはや難しい。国連麻薬特別総会はこれから、麻薬単一条約に替わる国際的な新しい麻薬対策法、アプローチを模索せざるをえなくなっている。