米露関係に新しい展開か 対立の一方で接触が急増
米中不測の事態回避の「保険」
対ロシア強硬方針を掲げ、大規模制裁を科す米国のバイデン政権に対し、ロシアは「米国の防空システムを回避できる」という極超音速巡航ミサイルのテストを行うなど、米露関係は悪化したままだ。しかしその一方で、今年6月の米露首脳会談以降、両国のコンタクトは急増しており、両国関係が新しい展開を見せつつある、との分析も出ている。(モスクワ支局)
ロシアは4月、2014年のクリミア併合やウクライナ東部紛争以来の規模となる約10万人に達する軍部隊をウクライナ東部国境付近に展開し、国際社会の批判を浴びた。ショイグ国防相は同月末、「演習を終了した」として撤収を指示。これら部隊は5月までに駐屯地に戻った。
米メディアによるとロシアは11月に入り、再びウクライナ東部国境付近に9万人規模の軍部隊を集結させた。これに対し米国は、第6艦隊を黒海に派遣したほか、ブリンケン米国務長官は11日にワシントンでウクライナのクレバ外相と会談し、ロシアを強く牽制(けんせい)するとともに、ウクライナ軍の軍事訓練を強化するなど、ウクライナを支持する姿勢を改めて明確にした。
ロシアは極超音速巡航ミサイルのテストを続け、米国が主導する北大西洋条約機構(NATO)との関係も悪化させた。ロシア発のランサムウェアによる米国などへのサイバー攻撃も続いており、米国はロシアを狙ったサイバー攻撃で反撃すると表明。対露制裁も継続し、モスクワの米国大使館はビザの発給を事実上停止した。
このように米露関係は悪化したままだが、ジュネーブで6月に行われたバイデン大統領とプーチン大統領の会談以降、両国のコンタクトが急増していることも事実だ。米CIAのバーンズ長官の11月のロシア訪問は、6月の米露首脳会談以降、4回目となる米高官の訪露だ。露安全保障会議のパトルシェフ議長、連邦保安局(FSB)のボルトニコフ長官と会談したほか、プーチン大統領とも電話会談した。
バーンズ長官の一連の会談は、世界最大規模の核戦力を持つ米露両国関係の安定や、サイバーセキュリティーに関するものだった。分析家によると、バーンズ長官の訪露は、10月に行われたヌーランド米国務次官の訪露よりも、より実りの多いものだったという。
バイデン政権は、対ロシア強硬政策を取る一方で、「最大の競争相手」とする中国との関係が、不測の事態に陥らないための「地政学的な保険」として、ロシアを位置付けているとされる。
政治学者のマクシム・シェフチェンコ氏は、次のように語っている。「米国が中露関係の断絶を要求することはなく、逆に、ロシアとカザフスタンに対し、欧米の投資を呼び掛けるだろう。また、ロシアが中国と行う合同演習や共同パトロールは、結果的に地域の安定化と、中国の暴走を防ぐ役割を果たしている」
ロシアの一部の専門家によると、ロシアの経済が悪化する中でプーチン大統領は欧米との対立を望まず、軍や治安部隊を代表するシロビキと呼ばれる強硬派ではなく、コワルチュク氏などのオリガルヒ(富豪)らの意見に耳を傾けつつあるという。
ロシアにとって、世界で最も裕福で最も大きな軍事力を持つ米国との関係改善は、国際社会におけるロシアの地位を安定させることにつながる。ロシアの一部の専門家によると、米国はロシアに対し、ベネズエラとキューバなどとの関係を断ち切り、西半球における軍事的・経済的なゲームから手を引くよう要求しているという。
米露関係がすぐに改善することはないだろうが、両国のコンタクトが頻繁に行われていることは良い兆しだ。ロシアがコロナ感染の再拡大、そして経済の悪化に苦しむ中、国際社会とのつながりの重要性を遅まきながらも理解するならば、ロシアが正しい選択を行う可能性が出てくるだろう。