米民主党の選挙改革法案、不正行為への懸念高める
米民主党が最優先課題と位置付ける全面的な選挙改革法案が3日、米下院で可決された。法案は各州に郵便投票や身元確認の規則などを大幅に緩めることを強制する内容で、共和党は不正行為への懸念を高める内容だとして強く反発している。(ワシントン・山崎洋介)
共和党「権力掌握の試み」
「われわれは米国民の声を拡大させる」。民主党のペロシ下院議長は法案採決前に連邦議事堂前でこう訴えた。同党は、法案を「国民のための法案」と名付け、米国民の「投票の機会を拡大」するものだと売り込んでいる。
これに対し、共和党は、法案によって民主党が自らが有利になるよう選挙規則を不当に変更しようとしていると指摘。共和党下院トップのマッカーシー院内総務は、「民主党が恒久的に多数派を支配できるようにすることが目的で、前例のない権力掌握の試み」だと批判した。
共和党の反発は強く、下院での採決結果は賛成220、反対210で、同党議員の全員が反対した。
実際、法案に盛り込まれた選挙規則の変更は、民主党にとって有利に働く一方、選挙に対する信頼を損なう恐れがあるものが数多くある。
例えば、各州に有権者に身分証の提示を義務付けることを事実上禁止するほか、選挙日当日やオンラインでの有権者登録を許可することを求める。また、運転免許証を持っている人や社会保障受給者を自動的に有権者登録することも各州に義務付ける。
これらによって、二重登録や非市民、不法移民が登録される恐れがある。すでに有権者の自動登録を行っているカルフォルニア州では2019年、選挙権のない非市民や18歳未満など約2万7000人の情報を誤って登録し、また約7万7000人の二重登録があったことが発覚した。
また、第三者が有権者に代わって郵便投票を返送する「バロットハーベスティング」を各州が禁じることができなくなる。これにより、特定の候補を支持するボランティアなどが、投票用紙を回収した後、改竄(かいざん)をするリスクが高まる。
さらに、消印があれば、最大10日間遅れても郵便投票を集計することが求められる。昨年11月の米大統領選と同時に行われた下院選では、ニューヨーク州の選挙区で結果判明まで100日近くかかった例があるが、法案が成立すれば、こうした状況が常態化することになりそうだ。
こうした規則変更は、郵便投票を選ぶ人やマイノリティー、低所得者層から支持を受ける民主党に対して有利に働くとみられる。
上院では議事妨害(フィリバスター)があるため、民主党議員50人に加え、共和党議員10人の支持が必要となる。共和党は強硬に反対していることから、現状では可決の可能性は低い。ただ、民主党左派の間で、フィリバスター廃止を求める動きもあり、将来的には成立の可能性もある。
新型コロナウイルスの感染拡大を理由に幾つかの州は昨年、郵便投票の拡大、身元確認基準の緩和など、多くの州が選挙方法に変更を加えた。これらが混乱や結果判明の遅れにつながったことから、各州議会で、共和党議員が身元確認の強化や郵便投票の制限に動いている。
法案は、こうした各州の取り組みを骨抜きにするものだ。20州の共和党の司法長官は、大統領選の選挙規則について憲法上、州に決定権があるとする法案は違憲だと訴えている。
民主党は、共和党による身元確認の強化のなどの動きがマイノリティーなどに対する「投票権の抑圧」だと主張する。しかし、カーター元大統領とベーカー元国務長官による超党派の連邦選挙改革委員会は、05年の報告書で、写真付き身分証明書の提示を求めることが不正投票を最小限に抑えるための最良の方法であると指摘。「不正を抑止し、見つけ出すための保障措置がなければ、選挙制度に対する国民の信頼を喚起することはできない」と、対策の重要性を強調している。
2月に発表されたシカゴ大の全国世論調査センターでは、共和党員の65%はバイデン大統領が正当に選出されていないと回答。選挙への不信感が残る中、来年の中間選挙や24年の大統領選に向け、選挙制度をめぐり与野党の攻防も強まっていくとみられる。