新型コロナ感染1千万人突破のブラジル
ブラジルの新型コロナウイルス感染者数が1000万人を超えた。感染拡大の「第2波」は、昨年の第1波を超える勢いでブラジル全土に広がっており、医療崩壊を防ぐために厳しい隔離措置を取る自治体も増えている。感染力が格段に強いブラジル型変異株にも十分対応できるワクチンの普及が急務だ。(サンパウロ・綾村悟)
存在感増す中国製ワクチン
次期大統領選の思惑絡む
新型コロナの新規感染者は現在、世界的には明らかな減少傾向にある。その中で、ブラジルは感染拡大の中心地としていまだ多くの感染者を出し続けている。
22日時点のブラジルの累計感染者は1016万人で、米国、インドに続く世界3位。新規感染者は連日のように5万人を超え、減少傾向にあるインドを3月にも抜く可能性が高い。死者は米国に次ぐ世界2位の24万人で、人口比では最も多い国の一つだ。
ブラジルで感染拡大が衰えない理由の一つが、今年1月に北部アマゾナス州で確認されたブラジル型変異株の存在だ。
「感染力が従来型の3倍」(ブラジル保健相)ともいわれるブラジル型変異株は、従来型の抗体を無効化して再感染する可能性が指摘されている。「集団免疫」を獲得したとされてきたアマゾナス州が、第2波の震源地となっているのだ。
そうした中、最も急務なのが、感染抑制と変異株に対応するワクチンの確保だ。
ブタンタン生物研究所(サンパウロ市)は19日、同研究所が国内製造を担当している中国製薬大手シノバク社のワクチン「コロナバック」について、南アフリカと英国型の変異株にも一定の効果が確認されたと発表した。ブラジル型変異株に関しても、有効性が確認される可能性は高いという。
シノバク社のワクチンは、有効性は50%超とそれほど高くないが、重症化を防ぐ確率が非常に高いとされる。保存が通常の冷蔵庫でできることもあり、広大な国土を持つブラジルでは僻地(へきち)への輸送も含めて有用性が高い。
ブタンタン研究所は、9月までに1億回分のコロナバックを製造する予定だ。さらに、サンパウロ州セアラ市(人口約4万人)では、全市民を対象としたワクチン接種も開始した。同市での前例のない実験は、ワクチンによる集団免疫の効果など、今後の対策を決める上で重要なデータとなる見通しだ。
コロナバックは今や、英アストラゼネカのワクチンと並び、ブラジルのワクチン政策の根幹をなしている。その背景には、中国の積極的な「ワクチン外交」に加えて、ブラジル国内の政治的要因も入り込んでいる。
ブラジルにシノバク社のワクチンを導入したのは、サンパウロ州のドリア知事だ。同州が上海に持つ代表事務所を通して契約に至った。ドリア氏は、感染抑制のために、積極的な商業活動の制限や自宅待機政策を進めてきた。経済優先派のボルソナロ大統領とは、幾度となく激しい批判の応酬を繰り返してきた政敵の関係にある。
一方、ボルソナロ大統領は、中国との経済活動は重視するものの、中国を警戒するスタンスは崩さない。「ウイルスは中国が世界に広めた」と批判し、中国製ワクチンに関しても「(中国の)モルモットになるつもりはない」と、コロナバックの導入に反対してきた経緯がある。
こうした中、2年後に控えるのがブラジル大統領選挙だ。新型コロナを軽視する言動で批判を浴びるボルソナロ氏だが、世論調査での支持率は高く、次期大統領選挙の最有力候補だ。
一方、ドリア氏も出馬発言こそないものの、有力候補リストに挙がっている。4400万人の人口を抱えるサンパウロ州を制するものが大統領になると言われ、同州知事になることは大統領選に出るための通過点ともされてきた。
ただ、ドリア知事の支持率は決して高いわけではない。ワクチン確保で成果を挙げたドリア氏だが、経済活動に対する厳しい制限措置などをめぐっては、多くの人々が反発している。
ブラジル発の変異株による世界的なパンデミックの再現が懸念される中、来年に迫ったブラジル大統領選挙に向けて、中国政府の影がちらつくワクチンの行方も注視されている。





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