バイデン米政権 左派が気候変動対策を主導

化石燃料敵視の政策次々に

 バイデン米大統領は就任以来、一連の大統領令で、「化石燃料からの移行」を推進する政策を相次いで打ち出した。だが、党内左派が主導する急進的な取り組みは、雇用や経済面への悪影響に加え、エネルギーを他国に依存することになる可能性があり、国家安全保障を損なう懸念がある。(ワシントン・山崎洋介)

他国にエネルギー依存の恐れ

 バイデン氏が就任日の先月20日、カナダと米国を結ぶパイプライン「キーストーンXL」の建設認可を撤回したことが波紋を呼んだ。

先月27日、米ホワイトハウスでクリーン・エネルギーを奨励する一連の大統領令に署名したバイデン大統領(UPI)

先月27日、米ホワイトハウスでクリーン・エネルギーを奨励する一連の大統領令に署名したバイデン大統領(UPI)

 同パイプラインをめぐっては、オバマ元大統領が2015年にカナダ企業TCエナジーの建設申請を却下したが、トランプ前大統領が再び建設を認可していた。

 バイデン氏は選挙期間中から同パイプラインの認可撤回を公約にしていたことから、予想はされてはいたものの、就任直後の決定は驚きを持って受け止められた。1万人以上の雇用が失われることが予想されることから、労働総同盟・産業別労働組合のリチャード・トランカ会長は「初日に実施されることは望んでいなかった」と不満を表明した。

 だが、この決定が実際に温室効果ガス削減につながるとは考えられていない。

 TCエナジーはすでに、再生可能エネルギーを利用するなどしてパイプラインの運用全体で温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする計画を示していた。これに加え、米メディアによると、パイプラインよりもむしろカナダから鉄道やタンカーで原油を輸送する方が二酸化炭素(CO2)排出量が少なくとも28%増加することも分かっている。

 こうしたことから、民主党のジョン・テスター上院議員も、CNNのインタビューで「このパイプラインが気候変動問題を好転させることも悪化させることもない」と認めている。

 バイデン氏は大統領選で党内左派の支持を得るため、気候変動対策で50年までに温暖化ガス排出実質ゼロを実現すると主張。今回の決定も、化石燃料を敵視する左派が政権の気候変動対策を主導しつつあることを示している。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、先月21日付の社説でこの認可撤回を取り上げ、「バイデン政権内で気候パニックが他のほとんどすべてに優先するという初期の兆候が見られる」と指摘。今後、政権が規制や認可の権限を乱用することに警戒感を示した。

 この決定に続き、バイデン氏が先月27日に石油・ガス開発向けの連邦政府所有地の新規リースを60日間停止する大統領令に署名したことも懸念を招いている。

 米国で生産される石油の約22%と天然ガスの約12%は、連邦政府の所有する土地や海域で生産されている。ただ、バイデン政権による規制を見越して、エネルギー開発企業はすでに積極的に許可を取得しており、短期的には影響は少ないとみられる。

 しかし、今後、新規リースの停止が恒久化される可能性があるほか、既存のリースに対しても規制が強化されるとの見通しもある。

 石油・ガス業界団体、米石油協会(API)は声明で、連邦政府の所有地での生産が減少すれば、外国からの輸入によって対応せざるを得なくなり、むしろ「環境基準の低い国々へのエネルギー依存を高めることにつながる」と警告する。

 「シェール革命」による米国での石油とガスの生産拡大は、トランプ前政権によって実施された規制緩和で加速し、17年に天然ガス、19年には石油の純輸出国になった。エネルギー自立を実現したことで、ロシア、イラン、ベネズエラなどの強権国家に対する制裁圧力をかけることが可能になった。しかし、バイデン政権の政策はこの流れを逆転させ、中東諸国などへのエネルギー依存を生み出す恐れがある。

 米シンクタンク大西洋評議会のアリエル・コーエン上級研究員は、フォーブス誌への寄稿で「過度に野心的なグリーン・エネルギーへの移行は、何十万人もの苦しい生活をしている米国民を失業させ、ラテンアメリカ諸国、ロシア、中東での米国の影響力を弱める可能性がある」と指摘した。