トランプ米大統領退任へ


既成概念崩し歴史的実績
議事堂襲撃事件が汚点に

 過激な発言などで物議を醸したトランプ米大統領が20日、退任し、バイデン次期大統領の就任式が、首都ワシントンで行われる。6日に起きた支持者による連邦議事堂襲撃事件によって、トランプ氏のレガシー(政治的遺産)は霞(かす)んだ感がある。しかし、アウトサイダーとして大統領に就任したトランプ氏は、既成概念にとらわれない発想で米政治に多くの変革をもたらした。その幾つかは、長期にわたって米国の方向性を転換し得る歴史的な業績だ。

トランプ米大統領=12日、南部テキサス州ハーリンゲン(AFP時事)

トランプ米大統領=12日、南部テキサス州ハーリンゲン(AFP時事)

 中東において画期的な突破口を切り開いたのが「アブラハム合意」だ。米国が仲介したイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)などアラブ4カ国との国交正常化に合意した。イランの脅威という共通の課題を持つ国の間で、経済的連携を構築し、抑止力を高めるもので、中東の勢力図を大きく変える転換点となった。

 オバマ前政権のジョン・ケリー元国務長官は退任直前の2016年12月、「パレスチナとの和平なくして、(イスラエルと)アラブとの個別の和平はない」とくぎを刺していたが、それが見当違いであったことが露呈された形だ。トランプ政権が外交エスタブリッシュメントに広がっていたこうした通念にとらわれていたら、この成果は生まれなかっただろう。

 与党となる民主党は反イスラエル・親イラン的な左派を党内に抱えるが、バイデン氏は当時この合意を歓迎する声明を発表していることから、今後もイスラエルとアラブ諸国との関係改善が進む可能性がある。

 約40年続いた中国との経済関係を優先する「関与政策」を劇的に転換させたトランプ氏の功績も大きい。同氏は、中国に対して関税を武器にした「貿易戦争」を仕掛けるなど型破りな手法で圧力をかけた。

 ペンス副大統領やポンぺオ国務長官ら政府高官の演説では、中国による広範な対外工作などを赤裸々に告発。新型コロナウイルスの感染拡大後は、政権内の対中強硬派が主導権を握り、テキサス州の中国総領事館閉鎖や南シナ海における中国領有権主張の否定など強硬策を相次いで打ち出した。

 人権問題、先端技術、軍事など幅広い分野における対中強硬論は今では米国で超党派のコンセンサスとなった。

 大型減税や規制緩和により、新型コロナ流行の前までは米国経済は堅調な成長を遂げた。連邦最高裁に3人の保守系判事の指名、歴代大統領が実行できなかったイスラエルの首都エルサレムへの大使館移転、北米自由貿易協定(NAFTA)の改定など掲げた公約を着実に実施する「有言実行」の姿勢で、「ワシントン政治」に不満を募らせていた保守層からの熱狂的な支持を集めた。

 一方で、民主党やエスタブリッシュメント(既得権益層)の強い反発を招いた。

 共和党の重鎮であるギングリッチ元下院議長は先月、ワシントン・タイムズ紙への寄稿で、モラー特別検察官によるロシア疑惑捜査、民主党によるトランプ氏弾劾の試み、バイデン氏の息子ハンター氏の疑惑を報じないリベラル系メディアなどを批判。エスタブリッシュメント層が「ウイルスを殺そうとする免疫システムのように、大統領に対して力を結集させてきた」と訴えた。

 他方、攻撃的性格のトランプ氏は、スタッフを次々と更迭するなどして多くの敵をつくった。大統領選の選挙人投票結果の承認をめぐっては、これまで忠実にトランプ氏を支えてきた共和党議員らに対し予備選での対抗馬擁立を示唆するなど、その攻撃性は度を越したものとなっていた。

 議事堂襲撃事件により、民主国家をリードする米国のイメージは大きく傷ついた。トランプ氏は支持者を扇動したとして非難を浴びるなど、その業績に汚点を残す形となった。

(ワシントン 山崎洋介)