米国防宇宙戦略 中露の軍事利用の脅威減少を


 安全保障における宇宙空間の重要性は著しく増大している。米国防総省は6月、今後10年間の宇宙政策の指針となる「国防宇宙戦略」を発表した。

 宇宙空間では、中国やロシアの脅威が高まっている。米国は日本をはじめとする同盟国と協力し、こうした脅威を減少させる必要がある。

同盟国との連携強化へ

 新戦略の策定は9年ぶりで、トランプ政権では初めて。宇宙空間における米軍の対応方針を示した同戦略は「中国とロシアは米国と同盟国の軍事活動を低下させるために宇宙の軍事利用を進めており、最も差し迫った深刻な脅威だ」と強い警戒感を示した。

 その上で、米国は宇宙での軍事的優位を維持するため「敵に対抗するための能力を開発し配備する」として、昨年創設した宇宙軍を活用し、宇宙での戦闘に備える方針を鮮明にした。

 さらに「政策や戦略、能力や運用面における同盟国や友好国との協力の機会を増やす」として、情報共有などで日本をはじめとした同盟国との連携を強化する考えを示した。

 ロシアの宇宙活動は、旧ソ連時代から継続している。1991年の旧ソ連解体以降、ロシアの宇宙活動は低調な状態にあったが、近年は再び活動を拡大している。米宇宙軍によると、ロシアは4月、衛星攻撃兵器の発射実験を実施。レイモンド同軍司令官は「米国や同盟国の衛星に対する脅威は現実かつ深刻である」と指摘した。

 中国は50年代から宇宙開発を推進し、70年4月にミサイル開発を発展させた技術を用いて運搬ロケット「長征1号」に搭載した中国初の人工衛星「東方紅1号」を打ち上げた。以後中国は、情報収集、通信、測位など、軍事目的での宇宙利用を積極的に行っている。

 ロシアは2015年に空軍と航空宇宙防衛部隊を統合した「航空宇宙軍」を、同年末には中国が人民解放軍にサイバーや衛星防衛担当の戦略支援部隊を新設している。米国では宇宙を「戦闘領域」と位置付け、19年12月に陸海空軍および海兵隊、沿岸警備隊と並ぶ独立軍として宇宙軍が創設された。宇宙空間での攻撃への対処も想定する。これも、中国とロシアへの強い警戒感からに他ならない。

 18年の軍事衛星打ち上げ機数をみると、同年11月時点で中国が29機となり、米国の6機を大きく上回っている。中国やロシアは他国の人工衛星を攻撃する「キラー衛星」の開発に乗り出しており、中国は地上から発射するミサイルで人工衛星を破壊する実験に成功している。

 キテイ国防次官補代理(宇宙担当)は、日本が今後打ち上げる予定の日本版全地球測位システム(GPS)衛星に米国の宇宙監視用センサーが搭載されること、米軍が主催する宇宙空間の監視に関する多国間演習に自衛隊も参加していることを挙げ、日本を含む同盟国との連携緊密化に期待を表明した。

米国は優位性維持を

 米国が宇宙での優位性を維持し、各国との宇宙共同作戦に指導力を発揮することが、中露の脅威に対抗して宇宙の安定を確保する道に通ずると言える。