米、イスラエルの中国接近を警戒

ポンペオ国務長官が警告

 イスラエルと中国の経済的接近が、米政府を悩ませている。米国は、経済的、軍事的に中国封じ込めを進め、同盟国にも協力を呼び掛けており、同盟国イスラエルの中国接近が、中国の利益になるだけでなく、米国の脅威にもなる可能性がある。(外報部・本田隆文)

安保上の脅威の可能性も

 ポンペオ米国務長官は13日、2カ月ぶりの外国訪問でイスラエルを訪問した。イスラエル大使館のエルサレム移転2周年を祝うとともに、ようやく発足したイスラエル新政権への支持を明確にすることが名目だが、対中関係でくぎを刺すことが目的の一つだったとみられている。

 ネタニヤフ首相らとの会談後の声明では、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地の併合、イランへの対応などが話し合われたとされ、中国問題は明記されていない。しかし、英BBCなどによると長官は、中国との経済的関係の強化を絶つよう求めた。米政府も、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)との協力強化でイスラエル国内の情報が流出することに懸念を表明した。

ポンペオ米国務長官(左)とネタニヤフ首相

エルサレムの首相公邸でポンペオ米国務長官(左)と握手するネタニヤフ首相(2019年10月18日、UPI)

 米国が現在、イスラエルとの関係で、将来、安全保障上の脅威になる可能性があるとして特に懸念しているのは、ハイファ港の整備や世界最大の海水淡水化プラント「ソレク2」建設の入札に中国企業が応札していることとみられる。

 ハイファ港は地中海に面したイスラエル最大の港で、建設が進む新ターミナルは来年中国企業によって運用が開始される予定だ。

 ソレク2の2社による最終入札に香港企業の子会社ハッチソン・ウォーターが残っており、テレビ局「チャンネル13」によると、米政府の圧力を受けて、ネタニヤフ首相が入札の見直しを外国投資委員会に命じたという。

 トランプ米大統領とポンペオ氏は昨年、中国との関係を縮小しなければ、安保協力や情報の共有を制限するとイスラエルに警告、深まる中イスラエル関係に危機感をあらわにした。

 フリードマン駐イスラエル米大使は、イスラエル紙エルサレム・ポストで、「両国は協力し合い、相互の安全のために情報を交換してきた。両国はこの協力関係が、違った目的を持つ外国によって影響を受けないよう慎重に行動する必要がある」と、中国と協力を進めるイスラエルに警鐘を鳴らした。

 フリードマン氏は、中国による投資とインフラ整備は各国に「浸透する」ためだと訴える。イスラエルと中国の間の貿易額はこの10年で約5倍、2018年の貿易額は約140億㌦で、イスラエルにとって第3位の貿易相手国だ。

 中国は13年に一帯一路を立ち上げて世界各地でインフラ整備などに乗り出し、15年にハイテク分野で世界のリーダーになることを目指す「中国製造2025」政策をスタート。ポスト紙は「イスラエルはこれらのどちらにも当てはまる」と指摘している。また、同紙は「イスラエルの目的は、不足している資本を入手することだ。そのためには、成長を続ける中国経済とつながることで輸出市場と投資元を分散させる必要がある」と現状を分析した。

 米国のシンクタンク、ランド研究所は4月、米国防総省の資金協力を受けて中国のイスラエルへの投資に関する報告書をまとめた。

 報告は、イスラエルと米国が懸念すべき企業として11社を挙げている。これらの企業は、交通機関の整備、アシュドット港の拡張工事、ハイファ港のターミナル施設の運用、テルアビブの鉄道整備などに関与している。さらに、軍事転用可能な技術への投資にも懸念を表明した。

 中国通信大手ファーウェイと中興通訊(ZTE)は「中国の政府、軍との不透明な関係があり、米国では監視下に置かれている」とハイテク、通信分野での進出にも警鐘を鳴らす。

 米国での新型コロナウイルス感染拡大の影響で、米中関係は悪化している。米政府としては、イスラエルへの中国の接近を排除したいところ。しかし、トランプ大統領の再選に大きな影響力を持ち、イスラエルを支持するキリスト教福音派を横目に、イスラエルに対し強硬な姿勢を取ることができないというジレンマに直面している。