抗マラリア薬で意見対立 米政権 コロナ対策


大統領補佐官「明確な効果」
国立研究所長「証拠乏しい」

 新型コロナウイルスの治療薬の候補として期待される抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」の有効性をめぐり、トランプ米政権のタスクフォース内で対立が生じている。「極めて有望だ」などとして現場での使用を促すトランプ大統領らに対し、科学的証拠が不十分として公衆衛生の専門家は反対するなど、議論が白熱している。

トランプ米大統領

7日、ホワイトハウスで記者会見するトランプ米大統領(AFP時事)

 米国で新型コロナによる死者の増加に歯止めがかからない中、トランプ氏はヒドロキシクロロキンがコロナ治療薬候補として状況を一変させる「ゲームチェンジャー」の可能性があると評価。記者会見などで連日、強い期待感を示している。

 しかし、5日出演したCBSの番組でファウチ国立アレルギー感染症研究所長は、治験による同薬の効果は「せいぜい示唆的なものにすぎない」と指摘。化学的に断定的なことは言えないとし、慎重姿勢を見せている。

 米ネットメディア「アクシオス」によると、4日にホワイトハウスで行われた会議で、部屋に分厚い資料を持ち込んだナバロ大統領補佐官(医療物資担当)が「明確な治療効果がある」と主張したが、ファウチ氏は「証拠に乏しい」と反論。これに対しナバロ氏は、「これは科学だ。あなたは当初、中国からの入国禁止措置に反対したではないか」と声を荒らげて非難したという。

 ナバロ氏は6日にCNNのインタビューで、ファウチ氏との意見の対立を認めた上で、「医者の間には常に異なる意見がある」と述べ、賛成する医者もいると指摘。また「今は戦時であり、状況によってはリスクを取る必要もある。私はこの問題について、トランプ大統領の直観に賭ける」と述べ、同薬の使用を推進する立場を示した。

 トランプ氏の意向を受け、食品医薬品局(FDA)は3月下旬、新型コロナウイルス患者に使用するための緊急治療薬として承認した。トランプ氏は5日の会見で、「治療薬のテストに何年も費やす余裕はない。効くかもしれないし、効かないかもしれない」と主張。臨床試験のため2900万錠のヒドロキシクロロキンを備蓄したという。

 同薬の効果については、先月、フランスや中国で新型コロナウイルス患者を対象にした数十人規模の臨床実験が行われ、ウイルス量が減少したり、症状が緩和されるなどの効果が確認されたと報告されている。また、実験室での研究では、ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐことが分かっている。

 しかし、これまで小規模な治験にとどまっており、本格的な臨床試験で実証はされていない。一部の専門家は、需要が急増することで、関節リウマチ患者など、必要とする人々への供給が不足することに懸念を表明している。

 一方、ニューヨーク州では、先週からヒドロキシクロロキンを用いた臨床試験が開始された。クオモ氏は6日、現時点でデータは不十分だとしながらも、「有望な事例的証拠があった」と指摘。正式な試験結果が出るには、数週間程度かかるとみられており、その内容に注目が高まっている。

(ワシントン 山崎洋介)