新型コロナがベネズエラで大流行の危険性

 世界中で感染が拡大している新型コロナウイルスは、発生地の中国から地球の裏側に当たる南米にも広がり、12カ国すべてで感染者が出ている。特に、医療システムが崩壊しているベネズエラで感染者が増加していることは、同国発のパンデミック(大流行)につながりかねないと懸念されている。(サンパウロ・綾村 悟)

経済破綻で医療が崩壊
国民は栄養不足、免疫も低下

 昨年末に中国から始まった新型コロナウイルスは、2月25日にブラジルで南米大陸初の感染者が出た。その後、南米全12カ国に拡大し、16日時点で632人の感染が確認されている。

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16日、南米ベネズエラの首都カラカスでマスクと手袋を着けて接客する店員(右)(EPA時事)

 南米の感染者のほとんどは、イタリアなど欧州を経由したもの。南米で最多の200人以上の感染者を抱えるブラジルの保健当局は、「サンパウロなどの大都市では感染者が急激に増える可能性もある」と警戒を呼び掛けている。

 南米は現在、気候的には秋口に当たる。今後は次第に気温が下がりながら乾期に入るため、ウイルスが活動しやすい季節になる。

 2人の死者を出しているアルゼンチンでは、居住者以外の入国をすべて禁止する方向で動いており、ペルーなどもこれに続いている。入国制限をはじめとする南米各国の対応は非常に早いが、イタリアなど欧州の現状が南米にとって強い警鐘となった。

 こうした中、南米諸国が憂慮しているのがベネズエラの状況だ。ベネズエラは、反米左派政権による独裁が20年以上続き、放漫財政や原油生産の落ち込みなどで財政が破綻、食料や医薬品が極端に不足する事態に陥っている。

マドゥロ大統領

16日、南米ベネズエラの首都カラカスでマスクと手袋を着けて接客する店員(右)(EPA時事)

 ベネズエラでは、首都カラカスを中心に17日時点で33人の感染が確認されている。同国政府は最初の感染者が発見された13日に緊急事態を宣言すると、15日には首都圏を含む7州を隔離地域に指定して人の動きを抑えるなど、感染拡大を阻止しようとしている。マドゥロ大統領の退陣を求めて政府と衝突している野党指導者のグアイド国会議長も、路上デモの中止を発表した。

 だが、感染症の専門家からは、ベネズエラは新型コロナウイルスの大流行が起こりやすい環境にあるとの指摘が出ている。

 国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは昨年、「ベネズエラの医療システムは完全に崩壊している」との報告書を発表した。

 基本的な医薬品や医師の不足に加えて、ワクチンの欠如からはしかや風疹などの伝染病が後を絶たない。また、国民の3割以上が栄養失調状態にある中で、感染症に対する抵抗力が弱くなっている。特に、新生児の栄養状態は深刻で、生まれてきた子供の7割近くが育児放棄・遺棄されるほど一般市民の生活は追い詰められている(ブラジルのグロボメディア報道)。

 さらに、ベネズエラの病院では、医師自身が使用する医療用マスクや殺菌用の石鹸(せっけん)も足りず、人工呼吸器などの医療機器も度重なる停電や予算不足で使用できないものが多いため、新型ウイルスによる重症者が増えた場合は深刻だ。入院患者用の飲料水さえ不十分なのが現状といわれている。

 一般市民がマスクや消毒用アルコールを手に入れることも難しい。ベネズエラの平均月給は5㌦以下だが、首都カラカスでは50枚入りのマスクが数十㌦で販売されている。

 それだけに、新型ウイルスが蔓延(まんえん)した場合、同国発のパンデミックが現実のものとなる可能性が高まっている。

 ベネズエラと国境を接しているのがコロンビアとブラジルだ。コロンビアのドゥケ大統領は14日、ベネズエラで感染者が出たことを受けて、国境封鎖を指示した。これまでも推定500万人の難民がコロンビアやブラジルを経由して南米諸国に流入し、その過程で各国は感染症にかかった難民の対応に苦慮してきた。ブラジル政府も国境封鎖を検討している。