破壊進むアマゾン熱帯雨林、ブラジル大統領に強まる批判

 ブラジルにその60%が存在するアマゾン熱帯雨林。「地球の肺」とも呼ばれるこの地域は、温暖化に対する防波堤として、地球規模での環境保全のアイコン的存在になっている。アマゾンが崩壊する臨界点は近いと専門家らが警告する中、ブラジルなどアマゾンを管理する各国政府との連携も欠かせないのが現状だ。(サンパウロ・綾村 悟)

開発優先で事態深刻化

 8974平方㌔――。これは、今年1月にボルソナロ・ブラジル大統領が就任してから、違法伐採で失われたアマゾン熱帯雨林の総面積だ。実に鹿児島県の総面積9187平方㌔に相当する膨大な森林が「消失」してしまった。

ボルソナロ・ブラジル大統領

ボルソナロ・ブラジル大統領(AFP時事)

 この数字は、ブラジル国立宇宙研究所(INPE)が今月14日に発表したデータを計算したもの。昨年同期比では、違法伐採で失った森林の面積は2倍近くにもなっており、近年では最悪の数字だ。

 環境保護派や欧米諸国は、アマゾン開発を推進してきたボルソナロ氏に責任があると批判している。特に、今年8月に発生したアマゾン熱帯雨林を中心とした南米の大規模森林火災では、ボルソナロ氏の開発優先の政策が一因とされた。

 森林破壊のほとんどが人の手によるものだということは、人工衛星が伝える情報でも一目瞭然だ。米航空宇宙局(NASA)が今年8月に公開した衛星写真は、南米全体、特にアマゾン地域を中心として数千もの森林火災が発生している様子を驚きと共に伝えた。

 その衛星画像は、森林火災が整備された道路沿いに広がっていることを指摘。農牧地を得るために、野焼きなどが行われていることを示した。野焼きは、欧米諸国などからの批判を受けたボルソナロ氏が禁止令を出した後に急激に減少している。

 現在、欧米や日本のメディアでは、経済成長を優先するボルソナロ氏に対して批判的な論調が多い。事実、ボルソナロ政権下では、財政不足とはいえ、ブラジル環境・再生可能天然資源院(IBAMA)に対する予算配分が少なく、違法伐採等の監視活動にも困難が生じている。

アマゾン熱帯雨林

8月23日、ブラジル北部のアマゾン熱帯雨林で広がる森林火災(AFP時事)

 ボルソナロ氏をめぐる対外的な印象も最悪だ。ブラジルは本来、国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)の開催国となるはずだったが、ボルソナロ氏の当選を受けて前政権が断念した経緯がある。

 COP25はスペインで今月2日から約2週間開催されたが、世界中の注目を集めているスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(16)も参加。8日には「アマゾンの森林を守っているブラジルの先住民族が(開発業者たちに)殺されている」とツイートした。

 この発言に対するコメントを求められたボルソナロ氏は、先住民族の死を悼みながらも、グレタさんのことを「あのガキ」と言及してしまった。当然のことながら、世界中のメディアがボルソナロ氏の発言を批判した。特に、グレタさんがツイッターで自身のことを「ガキ」と紹介するユーモアを見せただけに、ボルソナロ氏の印象は一段と悪くなった。

 アマゾン開発を主張してきたボルソナロ氏は、アマゾナス州の州都アマゾナスから熱帯雨林を縦断する国道361号の舗装工事を完成させると明言、実際に整備計画を進めている。環境保護団体などは「道路整備はアマゾンを破壊する」と激しく反対するが、一方でブラジル北部では歓迎されている様子もある。

 10月に実施された世論調査では、「環境保護と経済成長が同時に行えるのであれば最善」と答える有権者が69%に達した。アマゾン熱帯雨林の保護は、ブラジル国内でもメディアなどを中心に熱心に叫ばれているが、「経済成長を犠牲にしても保護を優先すべきだ」と答えた有権者は20%にすぎなかった。

 ボルソナロ氏に対する批判に終始しがちなアマゾン熱帯雨林の保護問題だが、ブラジル国内やアマゾン地域の住民を納得させるだけの計画が問われているのも事実だ。