米フードチェーンがキリスト教団体への寄付停止

LGBT勢力から圧力

 米ファストフードチェーン大手「チック・フィレイ」が先月中旬、同性婚に反対するキリスト教団体への寄付の打ち切りを決めたことが波紋を広げている。性的少数者(LGBT)活動家や一部の地方自治体が寄付をめぐって圧力をかけたことを受けての措置だ。この決定に保守派は失望を露(あら)わにするとともに、宗教的信念の表明が「差別」と断定される現状に懸念を深めている。(ワシントン・山崎洋介)

宗教的信念を「差別」と断定
保守派・宗教界は失望

 チック・フィレイは、マクドナルド、スターバックスに次ぐ米国第3位の売り上げを誇るチキンサンドの人気チェーン。創業者が敬虔(けいけん)なキリスト教徒だったため、日曜日は営業しないという独自の方針を貫いていることでも知られる。

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米ファストフードチェーン大手「チック・フィレイ」の店舗(バージニア州)=山崎洋介撮影

 しかし、2012年以降、チック・フィレイはLGBT活動家から非難の標的にされてきた。同社のダン・キャシー社長が「われわれは聖書に基づく家族の定義を全面的に支持する」と述べ、同性婚に反対する考えを表明したことがきっかけだ。

 これに猛反発したLGBT活動家は、不買運動を呼び掛けるとともに、「全米同性キスデー」と称し同性カップルが店内でキスをする抗議活動を行った。

 こうした厳しいバッシングにもかかわらず、同社は2ケタ台の売上高の伸びを続けるなど、急速に成長してきた。01年に10億㌦だった年間売り上げは、13年に50億㌦、現在は105億㌦まで拡大した。

 しかし、今年に入って新たに非難の的となったのが、キリスト教系慈善団体である「フェローシップ・オブ・クリスチャン・アスリート」と「救世軍」への寄付だ。両団体が同性婚に反対しているとして、行政を巻き込んだ猛バッシングが起きた。

 テキサス州サンアントニオ市はサンアントニオ空港への同社の出店を拒否。続いて、ニューヨーク州バッファロー空港も州議会議員による批判を受け、同社の出店を拒否した。

 こうした圧力にさらされ、同社は2団体への援助を停止する決定を下した。LGBT活動家らの圧力に屈した形の決定に、これまで同社をサポートしてきた保守派から失望の声が相次いだ。

 8月1日を「チック・フィレイ感謝デー」とし、食べに行く運動を呼び掛けていたマイク・ハッカビー元アーカンソー州知事は、ツイッターで「チック・フィレイは、金のために忠実な顧客たちを裏切った。彼らが創業者トルエット・キャシー氏の信念に忠実であり続けると信じたことを後悔している。悲しいことだ」と嘆いた。

 また、有力シンクタンク、ヘリテージ財団のケイ・コールズ・ジェームズ会長ら保守系団体の指導者ら49人は、同社に書簡を送り、今回の決定は「支援した人たちを裏切り、脅しを用いる左派運動の側につくもの」だと批判。こうした左派に妥協しても「攻撃を勢いづかせるだけだ」と強調し、決定を見直すよう求めた。

 一方、LGBT団体は、同社の決定に必ずしも満足はしていない。LGBTの権利擁護団体「中傷と闘うゲイとレズビアン同盟」は今回の決定を「慎重な楽観主義で見守る」としつつ、同社が「反LGBTQへの明白な反対を表明すべきだ」と要求している。

 しかし、これまで同社が同性愛者を差別したり、同性愛者への販売を拒否した具体的な事例があるわけではないのにもかかわらず、批判の集中砲火を浴びることに保守派の懸念は強い。保守系評論家のベン・シャピロ氏は「地方自治体が(同性婚に反対する)創業家の見解のみによって営業活動を妨げることは、(信教の自由を保障した)憲法修正第1条を危険にさらす」と指摘。また、「キリスト教慈善団体に寄付することで、空港で店舗を開くことが禁止されるとすれば、われわれの文化はもう後戻りできないところまで来ている」と危機感を示した。