ロシア政府が年金支給年齢引き上げ提示、92%が反対し各地で抗議
ロシア政府はこのほど、国民の反対が極めて強い二つの政策―年金支給年齢の引き上げと、付加価値税率のアップを発表した。3月の大統領選ではまったく言及されず、寝耳に水の発表に、ロシア各地で抗議運動が広がった。プーチン大統領は議論と距離を置いているが、年金支給年齢引き上げ中止を政府に指示することで、自らの支持率アップと付加価値税増税を実現する構え、との見方が出ている。
(モスクワ支局)
プーチン氏は議論と距離
ロシア政府は6月14日、国民の反対が極めて強い二つの政策を立て続けに発表し、下院に提示した。一つは年金支給年齢の引き上げ。男性は現在の60歳が65歳に、女性は55歳が63歳に段階的に引き上げる。もう一つは付加価値税の税率アップ。18%を20%に、来年から引き上げる、というものだ。
プーチン大統領が4選を果たした3月の大統領選で、プーチン氏はこれらについて語らなかった。ロシアの人々は、安定を求めてプーチン大統領の4選を支持したが、得たのは安定ではなく生活の不安定化だった形だ。
予断ではあるが、ロシアが2014年、ウクライナのクリミアを併合する“大義名分”として行ったクリミアの住民投票では、主に高齢者と中年層が、ロシアへの併合に賛成票を投じた。その最大の理由の一つとして指摘されたのが、ウクライナが欧州連合(EU)との間で調印した連合協定への反発だった。
反発を招いた連合協定の内容の一つが、年金支給年齢をEU加盟各国並みに引き上げるとの項目。しかし、今回のロシア政府の決定が下院で承認されれば、クリミアの住民は何のためにロシアへの併合を選んだのか分からなくなる。
世論調査機関「ロシア世論調査と市場研究」によると、92%が年金支給開始年齢の引き上げに絶対反対と回答した。若年層に限っても、年金支給開始年齢の引き上げに賛成したのは12%だった。
年金支給年齢の引き上げが非常に大きな問題であることは、クレムリンも理解している。ペスコフ大統領報道官は6月15日、年金支給開始年齢についての問題は政府が決定する事項であり、大統領は関与していないと語っている。
この年金支給開始年齢の引き上げと付加価値税の税率アップは、クリミア併合などを受けた対露経済制裁が継続し、ロシアの景気が低迷している中で発表された。この4年間で物価はほぼ2倍になった。一方で、給与はほとんど変わっておらず、雇用の縮小が続いている。年金支給年齢の引き上げにより、高齢者が仕事を求めるようになれば、さらに雇用環境は悪化するだろう。
政府の方針を受け、野党勢力は一斉に抗議行動に出た。ロシア共産党やロシア自由民主党などの抗議デモに加え、「汚職との戦い基金」のアレクセイ・ナワリヌイ代表も、ロシアの主要都市で抗議運動を展開した。
ところでロシア政府は、サッカーのワールドカップロシア大会の開催に合わせ、今回の方針を発表した。1カ月にわたり行われるワールドカップに国民は熱狂するだろう。ロシア代表が決勝リーグでベスト8まで勝ち進んで、その熱狂はさらに高まった。国民の関心がワールドカップに向けられているうちに年金支給開始年齢引き上げと付加価値税の増税を決め、反発を最小限に抑えたい、との気持ちが見え隠れする。
一方で、年金支給開始年齢の引き上げについては、プーチン大統領が止めるだろう、との見方も出ている。クレムリンは7月6日、「プーチン大統領は、政府の発表に対する国民の反応を知っている」との声明を出した。しかし、プーチン大統領はその議論には参加していないという。
年金支給年齢の引き上げなどにプーチン大統領は無関係、とアピールしながら、時を見て、大統領がそれに反対する立場を表明する。「慈悲深い皇帝」を演出し、大統領は支持率をさらに上げるだろう。一方で政府は、年金支給開始年齢の引き上げは断念するものの、念願の付加価値税の税率アップを手に入れる――このようなシナリオがあるのでは、との分析である。

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