米のシリアへのミサイル攻撃、急速に悪化する米露関係

 米国がロシアの同盟国シリアの空軍基地を巡航ミサイル「トマホーク」で攻撃したことにロシアは強く反発し、米露関係が急速に悪化している。もっとも、ロシアにとって米国との全面対立・軍事衝突は避けなければならず、シリア・アサド政権の切り捨てにも動きつつある。(モスクワ支局)

「信頼関係は最低レベル」 米国務長官
米との全面衝突回避へアサド政権切り捨ても ロシア

 「アメリカ・ファースト」を掲げ、「世界の警察官」としての役割よりも内政を重視する姿勢を示していたトランプ政権の変化に、ロシアは戸惑いも見せている。

プーチン氏(右)とアサド氏

2015年10月20日、モスクワのクレムリンで会談し、握手するロシアのプーチン大統領(右)とシリアのアサド大統領(AFP=時事)

 シリア問題についてトランプ氏は大統領選の期間中、ヒラリー候補との討論で、「アサド政権を打倒すれば、米国はより悪い状況に直面する可能性がある」と述べ、同問題に関わらない考えを示していた。

 さらに、シリア攻撃の数日前には「アサド大統領はシリアの指導者として妥当だ」と、アサド政権を容認する姿勢も見せていた。親露派アサド政権存続に向け、シリア問題で主導権を握りたいロシアにとって、トランプ大統領の姿勢は願ってもないものであった。

 ロシアにとってシリアは、中東や地中海に影響力を保持するための重要な戦略拠点。旧ソ連地域外で唯一、シリアのタルトゥース海軍基地とフムメイム空軍基地にロシア軍部隊を国外駐留させており、近年はこの駐留部隊の増強を進めてきた。

 アサド政権と対立する「イスラム国」(IS)の掃討作戦で主導権を握ったロシアは、ISの拠点などに大規模な空爆を実施した。ISだけでなく他の反アサド勢力も弱体化させ、アサド政権を強力に支援してきた。

 ロシアの思惑通りに進むかと見えたこの構図を一変させたのが、シリア北西部イドリアでの化学兵器の使用だ。一般市民に対する残虐行為にトランプ政権は激怒し、攻撃に踏み切った。

 ロシアは米国を非難するとともに、化学兵器を使用したのはアサド政権ではなく反政府勢力側だと主張した。しかし、ドイツやフランスなど欧米諸国も次々とアサド政権が化学兵器を使用したと断定し、米国を後押しした。

 さらに、ロシアを訪問したティラーソン米国務長官は12日、プーチン大統領、ラブロフ外相と相次いで会談した。外相会談終了後の共同記者会見でティラーソン国務長官は、アサド大統領の「秩序立った退陣」が必要だと述べた。

 ラブロフ外相はこれに同意せず、シリアでの化学兵器使用についても、「客観的な調査を要求する」と述べており、米国とロシアの溝は埋まっていない。

 ティラーソン国務長官は米露関係について「最悪の状態」にあり、「両国間の信頼は最低レベルだ」と述べた。

 アサド政権の排除に向けた米国の意思は固く、ロシアがこれに対抗することは難しい。アサド政権を守るために、米軍の攻撃に対しシリア駐留ロシア軍部隊が反撃すれば、米国とロシアが軍事衝突することになるが、それは避けなければならない。

 プーチン大統領の腹心であるマトビエンコ上院議長は16日、訪問先のサウジアラビアでシリア問題について「外部からの力による政権転覆には反対だが、いかなる代償を払ってもアサド政権を存続させようとは思っていない」と述べ、アサド政権の存続に必ずしもこだわらない考えを示した。