イスラエル軍がシリア空爆
「イランの無人機攻撃を阻止」
イスラエル軍は8月24日夜、シリアの首都ダマスカス近郊で、シリアに駐留するイラン革命防衛隊の軍事拠点を複数空爆した。イスラエル軍はこれまでにもシリア領内で空爆を行ってきたが、そのほとんどはイランからヒズボラへ輸送される武器を標的としたもので、イラン軍への直接的な攻撃はまれだ。(エルサレム・森田貴裕)
ヒズボラも報復を宣言
イスラエル軍は、声明で「革命防衛隊のクッズ部隊とシーア派民兵組織の標的を攻撃した」と発表した。同軍スポークスマンのコンリクス中佐は、「クッズ部隊は同盟のシーア派民兵組織と協力し、イスラエルを標的に爆弾を搭載した多数の無人機による大規模なテロ攻撃を計画し実行しようとしていた」と述べた。イランの無人機攻撃は非常に差し迫っていたが、直前に阻止することができたという。
シリア国営テレビは、ダマスカス上空で敵対勢力の攻撃に対する対空防衛作戦が行われたと発表した。英国に拠点を置くNGOシリア人権監視団によると、空爆で少なくとも5人が死亡し、その中には、革命防衛隊員1人とヒズボラ戦闘員2人が含まれているという。
イスラエルのネタニヤフ首相は、「イランはいかなる場所でも罪の責任を免れない。われわれはイランの侵攻に対し、あらゆる方面で戦う」と述べ、「殺される前に殺せ」というヘブライ語聖書の言葉を引用した。
レバノンのイラン系イスラム教シーア派武装組織ヒズボラが、軍事施設や兵士を攻撃してくるとみたイスラエルは、全国の軍基地を警戒態勢に置き、レバノン国境には砲兵部隊や戦車部隊などが増派された。北部地域には対空防衛システム・アイアンドームも配備された。
シリア空爆直後の25日未明、レバノンの首都ベイルート南部で、無人機2機がヒズボラの施設に飛来し爆発した。イスラエルのメディアは、無人機による攻撃で、イランとヒズボラの共同計画である精密誘導ミサイルの製造に必要な高度な機器を破壊したことを伝えた。
ヒズボラの指導者ナスララ師は、レバノンに精密誘導ミサイルを製造する工場はないとして、ミサイル工場があるというイスラエルの主張を否定した。
イスラエル軍によると、イランは2013年と14年に、シリア経由でレバノンのヒズボラへ向けて大量の精密誘導ミサイルを輸送し始めた。しかし、イスラエルの度重なる空爆により、ヒズボラへのミサイル輸送は阻まれた。イランとヒズボラは2016年、レバノン内の工場で既存のロケットの留め金を変えて精密誘導ミサイルに改造しようとしたが、その能力をまだ獲得できていないという。
イスラエル軍は29日、精密誘導ミサイル製造に関与するイランとヒズボラの高官4人の身元を明らかにし、イラン主導の計画が「レバノンの安定性を危うくする」と警告した。
レバノンとの国境で今月1日、イスラエル軍基地や装甲車などに向け多数の対戦車ミサイルが発射された。イスラエル軍は応戦し、ヒズボラのミサイル発射地点などを標的に砲撃を行い、約100発の砲弾を発射した。
ヒズボラは「イスラエルの軍用車両を破壊した」と声明を出し、ミサイル攻撃を認めた。ナスララ師は31日、シリア空爆でヒズボラ戦闘員2人が殺害された報復も含め、「イスラエルの無人機攻撃に対する反撃を決定した。イスラエルは代償を支払わなければならない」と述べ、報復を宣言していた。
国連平和維持軍は声明で、「国連レバノン暫定軍(UNIFIL)司令官のステファノ・デル・コル少将が、最大限の抑制を促すためイスラエルとレバノン双方の当局者と連絡を取り、敵対行為など全ての危険活動を停止するよう求めた」と発表した。しかし、イスラエルは17日に総選挙を控えており、ネタニヤフ政権は対イラン強攻策で支持を集めようとしており、高まる緊張は収まらない。