米との戦争回避へ仲介期待、安倍首相がイラン訪問

 2015年7月締結の「イラン核合意」から、トランプ米大統領は18年5月、離脱した。同大統領はさらに、規制を免れていたイランの弾道ミサイル開発や、テロ支援活動を封殺すべく、経済制裁を18年11月再発動、その時点で8カ国を対象に6カ月の適用除外期間を設定したが今年5月、全ての適用除外措置を打ち切り、イラン産原油の全面禁輸を開始した。安倍晋三首相は、6月12日にイランを訪問、13日、最高指導者ハメネイ師と会談する。(カイロ・鈴木眞吉)

イラン核放棄決断がカギ
米は空母・爆撃機派遣で牽制

 米国は、5月5日、イランの不穏な動きを警戒、イラン近海に空母打撃群と戦略爆撃機部隊を派遣すると発表。これに対しイランは8日、核合意離脱への報復措置として核開発の一部再開を宣言。12日には米国の懸念が的中、サウジ船籍の石油タンカー2隻を含む4隻が、ホルムズ海峡に近いアラブ首長国連邦(UAE)東部沖で「破壊工作」を受け、船体が損壊した。UAEなど3カ国は6月6日、「高度な作戦能力を備えた国家による洗練された連携作戦だったことが強く示唆される」と発表。5月14日には、サウジの東西を結ぶ石油パイプラインの2カ所が、無人機に攻撃され、イエメンのイラン系シーア派のフーシ派が犯行を認めた。

米海軍強襲揚陸艦「キアサージ」

5月17日、アラビア海で演習を行う米海軍強襲揚陸艦「キアサージ」。後続は駆逐艦「ベインブリッジ」(UPI)

 事態の深刻さを受け、トランプ氏は5月24日、約1500人の米兵中東追加派遣を発表した。

 米中央軍司令官は6月7日、イランがイラク駐留米軍や船舶の攻撃を計画していたとの見方を示し、空母打撃群の派遣がなければ、「攻撃が実行されていた可能性が高いと分析している」と述べた。

 複数の米軍幹部は、イランの艦船、潜水艦、地対空ミサイルなどは5月初旬、「高度の軍事的準備状態」に入っていたと指摘した。

 一方、イラン革命防衛隊の前司令官は6月9日、「もし米国がイランに対する極小の行動でも起こせば、全地域が火の海になる」と警告、両国間では一触即発の危機が続いている。

 しかし、米国のイランに対する一連の圧力は、戦争目的ではなく、イランを米国との対話へと導き、核合意の欠点を是正して、核放棄を決断させることにあるとの理解は一般的になってきた。

 ただ、トランプ氏は「体制の変更」を意図しないとしているものの、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)ら側近の本音はそこにあるともみられている。

 なぜなら、イランがイスラム教・シーア派革命で獲得した独特の体制「シーア派法学者による統治」こそが、イランをして核兵器開発に向かわせ、テロ支援を行わせ、中東および世界の治安を不安定化させる元凶になっているとみるからだ。

 体制に歯向かう者には死刑を宣告し、処刑することもいとわない。事実イラン革命を主導したホメイニ師は、小説「悪魔の詩」の著者、サルマン・ラシュディ氏に死刑を宣告、同書を邦訳した五十嵐一筑波大助教授は何者かによって暗殺された。

 イラン国軍を上回り、同国で最大の軍事力を持つ軍隊が、世にも不思議な「革命防衛隊」という名前であることもイランの体質を表している。

 命と財産を捧(ささ)げてでも革命の成果を守り、アラブ諸国や全世界に革命を輸出することが、聖なる戦い(聖戦)となる。

 その先兵が、革命防衛隊とレバノンのイスラム教シーア派過激派武装組織「ヒズボラ(神の党)」やイエメンのフーシ派などで、事実、シーア派革命の拡大に専念し、アラブ諸国を含む全世界からの警戒を招いている。

 一方、安倍首相の訪問を前にイラン側は、「米政権による原油禁輸の停止」を米政権に対する「イランの最も重要な要求」と位置付け、そのことが、「米国との対話に向けた第一歩になる」と説明する方針であることを9日、明らかにした。

 ペルシャ湾が封鎖されれば、世界で一番困るのは日本である。輸入する原油の8割、天然ガスの2割がホルムズ海峡を通っているからだが、安倍首相には、米イランの戦争を回避し、対話の開始に資する仲介が望まれている。