ガザで続くハマスとイスラエルの報復の応酬

 イスラエル殲滅(せんめつ)を掲げパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム根本主義組織ハマスと、イスラエルの武力による報復の応酬が続いている。ガザ地区では、パレスチナ難民の帰還を求めるデモが始められてから1年に当たる3月30日、ハマスの最高指導者ハニヤ氏が2年目のデモ続行を表明した。一方で、悪化の一途をたどるガザ地区の生活状況に不満を表したガザ市民が、ついにハマスに批判の声を上げた。(エルサレム・森田貴裕)

悪化するガザ市民の生活
ハマスへの抗議デモ開始

 14日夜、ガザ地区から5年ぶりにテルアビブに向けてロケット弾2発が発射された。

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3月30日、パレスチナ自治区ガザの対イスラエル境界に集結したデモ参加者(AFP時事)

 イスラエル軍は、ロケット弾攻撃はハマスに全ての責任があるとして、ガザ地区にあるハマスのロケット弾製造施設など100カ所以上を空爆。これにハマス側も複数のロケット弾で応戦した。

 25日早朝にも、ガザ地区からロケット弾が発射され、テルアビブ郊外の住宅を直撃した。乳幼児2人と12歳の少女を含む7人が負傷し、住宅は大破した。

 イスラエル軍報道官によれば、このロケット弾はハマスによって生産された長距離ロケット弾J80で、120㌔離れたガザ地区南部ラファから発射されたという。

 トランプ米大統領との首脳会談などのため、ワシントンを訪問していたイスラエルのネタニヤフ首相は「責任はハマスにある」と断定。「この犯罪的攻撃に対し、われわれは激しく報復を行う」と宣言した。

 イスラエル軍は、ガザ地区境界へ2個旅団1000人以上を増派し、ミサイル防空システム・アイアンドームを配備するなど警戒を強めた。

 イスラエルの報復を予想したガザ地区のイスラム教過激派テロ組織は、ハマス関連施設などから退避し、ハマスとイスラエルの停戦交渉を仲介していたエジプト政府関係者は、ガザ地区から脱出した。

 イスラエル軍は25日夕刻に報復を開始。ガザ地区のハマスやイスラム聖戦の軍事拠点など数十カ所に空爆と砲撃をした。

 ガザ地区からは、イスラエル南部に向けてロケット弾が発射され、ハマスは25日夜になって一時停戦を宣言したにもかかわらず、その後もイスラエル南部へ向けロケット弾や迫撃砲弾30発以上を発射し続けた。ガザ地区境界近くのイスラエル住民は、シェルターで夜を過ごしたという。

 30日には、ガザ地区で4万人規模のデモが行われ、暴徒ら数十人とイスラエル軍が衝突し、パレスチナ人4人が死亡。ガザ地区から翌31日早朝、報復とみられる5発のロケット弾がイスラエルに向け発射された。イスラエル軍は報復としてハマス拠点数カ所を砲撃した。

 ハマスは25日のロケット弾は誤って発射されたものだと主張。14日にテルアビブへ向けて発射された2発のロケット弾や、昨年10月のベエルシェバの住宅を直撃したロケット弾についても、事故により誤って発射されたと主張している。

 一部報道によると、ガザ市民の抗議と批判に直面しているハマスは、ガザ市民の関心を反ハマス抗議デモから逸(そ)らすためにイスラエルへの攻撃を仕掛けたのではないかとの見方もある。

 テルアビブへ向けた14日の攻撃の直前、人道状況が悪化し続けているガザ地区で、市民らが「私たちは生きたい」をスローガンにして、ハマスに抗議するデモを開始した。14日、ガザ地区の9カ所で悲惨な経済状況に抗議し、生活の質の改善を要求していた数百人規模のデモ隊が、ハマス治安部隊と衝突した。家宅捜査でジャーナリストや人権保護活動家ら数十人が逮捕された。

 16日には32歳男性が、家賃を払うことができずアパートから追い出された後、ハマスに抗議し焼身自殺を行ったという痛ましい事件も発生した。

 報道によると、カタールからの支援金は市民に届かずハマスの懐に入っており、過去2年間のパレスチナ自治政府の財政圧力により現金が不足しているハマスは、増税し、市民を危機に追いやっているという。