「ユダヤ人国家法」に抗議、イスラエルで10万人がデモ
イスラエル国会(クネセト)で7月に可決されたユダヤ人の権利を強調したイスラエルの新法「ユダヤ人国家法」をめぐり、アラブ系住民を中心に不満が噴出、イスラム教の一宗派であるドルーズ派による大規模な抗議デモも行われた。(エルサレム・森田貴裕)
アラブ系の不満あらわ
イスラエルをユダヤ人の国家と規定した新法は差別的だとして、ドルーズ派とその支持者が4日、中部テルアビブで10万人規模の抗議デモを行った。
テルアビブのラビン広場では、抗議デモ参加者がイスラエル国旗と共に色鮮やかなドルーズ派の旗を掲げ、平等な処遇を求めてシュプレヒコールを上げた。ドルーズ派による抗議集会は異例。精神的指導者シェイク・ムアファク・タリフ師は演説に立ち、「国家に限りなく忠誠を尽くしているにもかかわらず、国家はわれわれを対等と見なしていない」「われわれはイスラエル人であり、兄弟だ」と新法への抗議を表明した。
ユダヤ人国家法は、憲法に準ずる基本法の一部としてクネセトで7月19日に賛成62、反対55で可決された。安息日などユダヤの例祭を国の祭日とし、アラビア語は公用語から外して、特別な地位を持つ言語に格下げし、公用語はヘブライ語のみとした。また、パレスチナ自治政府が将来の首都と主張する東エルサレムをも含む統一されたエルサレムがイスラエルの首都だとし、イスラエルを歴史的にユダヤ人の祖国であると位置付け、国の自決権はユダヤ人に帰属するとしている。
ネタニヤフ首相は、新法の成立を「イスラエル国家の歴史における決定的な瞬間」と称賛。「イスラエルのユダヤ人国家としての地位を将来にわたって保証する法律」とした上で、「政府は引き続き少数派の権利を保護するが、多数派もまた権利を有し、多数派が判断を下す」とユダヤ人の優位性を強調した。
新法はイスラエルの人口約880万人のうち2割を占めるアラブ系住民の厳しい批判を招いた。
アラブ系国会議員で野党シオニスト連合のズヘイル・バルール氏は、国会を「人種差別主義者」と非難、「ユダヤ人国家法は、イスラエルにおける平等の方針から、公式かつ合法的にアラブ系住民を除外するものだ」と述べ、7月28日に辞任を表明した。
また、イスラエルの国防に奉仕することを誇りとしてきたドルーズ派も怒りを表明。ドルーズ派のイスラエル軍将校2人が、辞任した。
イスラエル国内で約14万人存在するドルーズ派は他のアラブ人と異なり、イスラエル国家への忠誠を誓い、男性はイスラエル軍や国境警備隊に従事しており、これまでに多数の戦死者も出している。
イスラエル軍の元司令官は、自身と同様に治安機関の上級職に就いたドルーズ派のメンバーについて「イスラエル人のアイデンティティーを持ち続けることを希望しており、政府やそのトップが法の改正に動くことは可能だと考えている」と、すでに改正を求める動きも出ている。
ネタニヤフ首相は、イスラエルに住む少数民族の個人的権利を傷つけたり、害したりすることはないと主張、改正には応じない構えだ。
1948年のイスラエル建国で約75万人のアラブ人が国外へ逃れ難民となったが、その後も国内にはアラブ系住民が少数派として暮らしている。こうしたアラブ系イスラエル人は法律上は平等の扱いを受け、社会保障も受けられるが、アラブ系住民によると、兵役に就くことで雇用や住宅取得などが有利になるという。