イスラエル、米露ヨルダン停戦合意に反対

 イスラエルは12日、米露がシリア南部の停戦協議を進めたとしても、イランの侵略を防ぐために、必要に応じてシリア領内への軍事攻撃を行うと警告した。イスラエルのネタニヤフ首相は、米露ヨルダン3カ国が仲介したシリア南西部での前回の停戦合意に続き、今回も「イランの軍事的野心に十分に対処していない」と停戦合意への反対を表明した。(エルサレム・森田貴裕)

シリア南部への攻撃も
イラン軍の駐留容認できず

 米、ロシア、ヨルダンの代表らは11日、ヨルダンのアンマンで停戦について協議し、シリア南部で一時的に安全地帯を設置することで合意した。この停戦合意は、イランの精鋭部隊「革命防衛隊」やシーア派民兵を含むすべての外国勢力の、シリア南部からの撤退を求めている。

ネタニヤフ氏(左)とプーチン氏

首脳会談で握手を交わすイスラエルのネタニヤフ首相(左)とロシアのプーチン大統領=8月23日、ソチ(EPA=時事)

 ヨルダン政府のモマニ報道官兼メディア担当相は11日、「この安全地帯は、7月7日の3カ国によるシリア南西部の停戦合意を支持するもの」と指摘。この停戦合意の下ではシリア軍以外は安全地帯に立ち入ることができないことを確認した上で、「シリアでの戦いを終結させる重要なステップであり、内戦への政治的解決につながる」と語った。

 米国務省当局者によると、ロシアは、ゴラン高原のイスラエル国境付近のシリア領から、イランの支援を受ける武装勢力を撤退させるため、シリア政府と協力することに同意した。

 イスラエル紙ハーレツによると、イスラエルは9月に、イスラエルとの国境から50~60㌔離れた場所までイランの武装勢力の移動を要求したが、ロシアは当初5㌔としていた。ネタニヤフ氏は20㌔を目標としている。

 ロイター通信によると、イスラエルのハネグビ地域協力相は12日、新たな停戦合意について「シリア国境地域にイスラム教シーア派根本主義組織ヒズボラやイランの軍隊を入れないというイスラエルの明確な要求を満たしていない」と記者団に語った。

 ネタニヤフ氏は、「ゴラン高原のシリア国境沿いでのイランの存在の容認や、シリアでイランが軍備を確保することは許されない」とシリアでのイラン軍駐留に反対し続けてきた。

 英BBCが停戦合意前日の10日、1月から10月にかけシリアでイランが恒久的軍事基地を建設している衛星画像を公開した。ダマスカスから14㌔南のキスワフ近くで、シリア軍が使用していた基地があり、ゴラン高原のイスラエル国境からは約50㌔離れているという。

 イスラエル軍は11日、ゴラン高原で国境に接近したシリアの無人偵察機をパトリオット迎撃ミサイルで撃墜したと発表。無人偵察機は非武装地帯に墜落した。北部国境は、シリア政府が国境沿いの地域から反政府勢力を排除するために大規模な攻撃を行い、緊張が高まっていた。

 イスラエルのリーベルマン国防相は声明で「われわれは、いかなる発砲や主権侵害もシリア政府に責任があると考え、その領土内で活動するすべての勢力の拘束を要求する」「シリアがシーア派勢力の前進基地になることは容認しない」と述べた。

 1967年6月の第3次中東戦争(六日戦争)でイスラエルの占領地となったゴラン高原では、シリア内戦の余波による越境攻撃が起きており、イスラエルは意図的なものと見なせば撃退するなど、報復の構えを示している。また、内戦中のシリア領内で活動するヒズボラの武器輸送部隊を標的に行った攻撃は、およそ100回にも及んでいる。