独立へ自信強めるクルド人

イラク北部住民投票、賛成9割

 イラクの少数民族クルド人は9月25日、周辺国や世界の主要国が強く反対する中、住民投票を行い、賛成92・71%で独立の意思を内外に誇示した。クルド自治政府のバルザニ議長は、圧倒的多数の独立支持を背景に今後、政府と交渉、2年後の独立を目指すとしている。(カイロ・鈴木眞吉)

反発強める中央政府
石油都市キルクークの支配が鍵

 クルド人は中東北部のクルディスタンに住むイラン系山岳民族で、居住地は中世から近世にかけて広大な版図を持ったオスマン帝国の領内にあった。第1次世界大戦で同帝国が敗れ、サイクス・ピコ協定に基づき、英仏露によって引かれた国境線により、トルコとイラク、イラン、シリア、アルメニアなどの諸国にまたがる形で分布する「国家を持たない世界最大の民族」となった。人口は2500万から3000万人。中東地域では、アラブ人、トルコ人、ペルシャ人に次いで多い。宗教は大半がイスラム教スンニ派で、ヤズディ教徒も少数存在。独自の言語、文化を持つ。

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クルド自治政府が実効支配するイラク北部で、独立を問う住民投票を歓迎する子供たち=9月25日、キルクーク(AFP=時事)

 クルド人は、1922年から24年まではクルディスタン王国として、46年には現在のイラン北西部にクルディスタン共和国として1年弱、国を持ったことがある。しかし、大国の圧力で独立は続かず、トルコやイラクでは分離独立を求め、長年政府との間で武力闘争を続けてきた。近年では各国の枠組みの中で広範な自治権獲得を目指す動きも出てきているが、欧米などへの移民を余儀なくされるケースもあった。

 2003年に米国がイラクに侵攻し、クルド住民を弾圧してきたサダム・フセイン元大統領を失脚させたことがクルド人が独立志向を高めるきっかけとなった。

 今回は、イラク北部の過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦での活躍が注目され、独立機運がいっそう高まった。

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 しかし、関係各国の独立反対は絶大で、大虐殺の予想も出るなど予断を許さない。

 イラクのアバディ首相は9月27日、「住民投票の結果は無効だ。政府は、今回の結果に基づく交渉には一切応じない」と言明、対話を求めたバルザニ議長を牽制(けんせい)した。政府は自治政府に対し、自治区内の中心都市アルビルと第2の都市スレイマニアにある国際空港の管轄権を引き渡すよう要求したが自治政府はこれを拒否、トルコやレバノン、ヨルダン、エジプトの航空会社はイラク中央政府の要請を受け、29日以降の発着を取りやめた。

 イラク連邦議会は27日、自治政府との係争地である油田地帯キルクーク州などに軍を派遣し、住民投票に関与した公務員を全員解雇するよう、アバディ首相に求めた。

 推定1000万人以上と最多のクルド人を抱え、オスマン帝国の再興を至上命題とするトルコのエルドアン大統領は、自治政府にとって原油輸出の大動脈である石油パイプラインを遮断すると脅迫、クルド人が多数居住するイラク北部への軍事侵攻も辞さないと警告した。

 多民族国家イランは、クルドの独立機運が波及する事態に警戒を強めている。

 米英仏など、イスラエルを除く国際主要国も、対IS戦への悪影響を懸念して反対を表明、クルド人精鋭部隊「ペシュメルガ」による対IS戦への集中度が減少しているとの指摘もある。

 ただ、IS掃討作戦の終了と共に情勢が一変することも考えられ、シリアのムアレム外相は、「IS掃討後、クルド住民との対話は可能だ」と述べている。

 エジプトのシンクタンク、アルアハラム政治戦略研究所のモハメド・ファラハト研究員は、クルド人の独立にとって不可欠の要素は石油都市キルクークを完全奪取することだと強調、経済的な基盤を得れば5年以内の独立は可能との見方を示した。