モスル制圧を正式宣言
「ISの闇と蛮行への勝利
イラクのアバディ首相は10日、過激派組織「イスラム国」(IS)が支配していた北部モスルを完全に奪還したと正式に宣言した。モスルでテレビ演説を行った同首相は、「われわれの勝利は、ISの闇に対する勝利、蛮行とテロリズムに対する勝利だ」と訴えた。
アバディ首相は「私はきょう、全世界に対し、虚構のテロ国家の終結と失敗、崩壊を宣言する」とISとの戦いの勝利を強調。イラク国旗を掲げ、イラク軍兵士らの大きな拍手を受けた。IS打倒のうねりは、今後、ISが「首都」と主張するシリアの「ラッカ」解放に向かう。
同首相は、9日に勝利宣言を予定していたものの、旧市街の一部地域でISとの戦闘が継続されていたことから、見送っていた。勝利をたたえ、11日をイラク全土での祝日とするほか、1週間を祝賀期間とする。
ただ、市内には数十人のIS戦闘員が立てこもっているとされ、10日も、爆発音や銃声がやむことはなかった。
モスル奪還作戦を支えてきた米国のトランプ大統領は、アバディ首相による正式な勝利宣言を受けて声明を発表し、ISとの戦いで「大きな前進」と評価、「ISの完全な滅亡を目指す」と宣言した。
国連の推計によると、損壊した建物は旧市街だけでも5000棟以上、約490棟が破壊された。モスル市民92万人以上が住居を失った。戦闘はほぼ終了したものの、ISが仕掛けた爆発物や地雷が残っており、その処理も急務だ。食糧や医療サービス、水が不足、衛生環境も極端に悪化し、人道危機にさらされている。
ISは、依然として3地域を支配下に置いている。モスルから南東130㌔のハウィジャ、西に60㌔のタルアルファ、南西250㌔のアナからカイムにかけての地域だ。
アバディ首相は、「この先にも任務がある。ISを一掃し、復興し、安定を生み出す」と国民の団結を訴えた。
(カイロ鈴木眞吉)
くすぶる覇権争い
「三日月地帯」目指すイラン/「緩衝地帯」守りたいサウジ
宗派対立の背景
【エルサレム時事】イラク政府軍が過激派組織「イスラム国」(IS)からモスルを奪還しても、ISの台頭を招いた一因とされるイスラム教の宗派対立や、その背景にあるイスラム教スンニ派の大国サウジアラビアとシーア派の盟主イランの覇権争いが終わったわけではない。この二つの地域大国の対立はむしろ深まっており、ISの支配地域縮小が必ずしも中東の安定化に直結しない状況にある。
イラク第2の都市モスルはもともと、スンニ派住民が多数派を占め、シーア派中心のイラク政府に反感を抱いていた。そうした状況下で住民の中から、スンニ派を自称するISへの自発的な参加者が出て、ISのモスル奪取に協力した経緯がある。
そのモスルをイラク政府軍が奪い返したことで、「今後、イランの影響力が増す可能性がある」と専門家は指摘する。イランは、イラク、シリア、レバノンを通じて地中海に至る「シーア派三日月地帯」の形成を目指しているとされており、イランとシリアを結ぶ直線上にあるモスルは戦略的意味を持つからだ。
覇権を強めるイランの動きは、敵対するサウジアラビアを刺激しかねない。サウジにとっても、モスルはイランの影響力拡大を阻止するための「緩衝地帯」の役割を果たしてきた。
サウジをはじめとするアラブ諸国がイラン寄りのカタールと断交した問題もあり、イラン・サウジ関係は緊張が高まっている。「モスル後」「IS後」の利害をめぐり両国の対立が激化すれば、中東情勢の混乱が結果的に新たなイスラム過激派の台頭を招く可能性もある。