「神の名で行われる暴力」を批判

ローマ法王、17年ぶりエジプト訪問

 カトリック教会のフランシスコ法王は28日、エジプトを訪問し、シシ・エジプト大統領やイスラム教スンニ派最高権威アズハルのタイイブ総長、コプト教(エジプトのキリスト教)のタワドロス教皇ら、主要な政治・宗教指導者らと会談。政界・宗教界双方に影響力を行使した。

宗教指導者は団結を

 法王のエジプト訪問は、2000年2月のヨハネ・パウロ2世以来17年ぶり。シェリフ・イスマイル首相が空港に出迎えた。

ローマ法王

カイロ市内のアズハル会議センターで、全世界からの宗教指導者を前に演説するローマ法王(鈴木眞吉撮影)

 法王はシシ大統領との2度の会談で、イスラム過激主義の台頭、カトリック教会とイスラム世界、2国間問題などを含む広範な問題を協議。昨年3月にカイロ市近郊の路上で殺害されたイタリア人青年についても、遺族からの依頼を受けたとして、エジプト政府に早期の解決を求めた。

 シシ大統領は、テロとの戦いの最前線であるエジプトは、国際社会と共にテロ撲滅に努力すると強調。来る5月10日に、カトリックとコプト教の間で、「友情の日」を祝うことを伝えた。

 法王は28日午後、アズハル会議センターでの国際平和会議で演説し、「神や宗教の名で行われる全ての形の暴力や復讐、憎悪には断固としてノーと言おう」と述べ、テロや暴力に対し、各宗教の指導者が団結して立ち向かうよう呼び掛けた。

 一方、法王の前に演説したアズハルのタイエブ総長は、「イスラム教はテロの宗教ではない」と述べ、過激主義者は聖典「コーラン」を誤って解釈していると批判した。アズハルは最近、シシ大統領が願う、過去のイスラム思想から暴力正当化の表現を削除することに対し、消極姿勢に転じている。

 日本から参加した立正佼成会の川端健之理事長は、本紙のインタビューに答え、「法王は、多大な危険を冒しながらも世界中をまわって頑張っておられる。世界を平和にする中心が出現したような気がする。希望だ」と述べ、法王の努力に敬意を表した。

 ギリシャ正教のアレキサンドリア総主教は、「全ての宗教は、人類の平和と愛と統一を目指している。宗教を自分の利益のために利用してはならないことを確認した」と述べた。

 昨年12月、過激派組織「イスラム国」(IS)による自爆テロを受け、28人の犠牲者を出したコプト教会の本部玄関で法王を出迎えたタオドロス教皇は、キリスト教派間の一体化に努力する法王を称賛、エジプトのカトリックによる学校や修道院の役割に謝意を表した。

 タオドロス教皇は、過去数カ月間、同教会が受けた受難を振り返り、犠牲者の死はキリスト教とイスラム教の一体化による国家の一体化をもたらしたとの認識を示した。

 教皇はさらに、「コプト教会とカトリックが、共にクリスマスを祝う道を探している」とも述べ、現在は異なる日に祝っているクリスマスを、同じ日に祝えるよう努力する旨を伝えた。法王は会談後、テロによる犠牲者に献花した。

 29日には、カイロスタジアムでミサを執り行い、約2万5000人が参加した。法王は、オープンカーで会場入りし、ファラオ(王)の帽子を被ったエジプト人の子供たちを抱きしめた。法王は戒厳令下でも一貫して防弾車を拒否、世界中に無言のメッセージを発し続けた。

(カイロ鈴木眞吉)