モロッコCOP22、「パリ協定」実施を議論し確認


日本は高効率燃焼技術で貢献

 2016年国連気候変動会議(COP22)が、昨年11月7日~18日まで、北アフリカ・モロッコ王国中央部に位置するマラケッシュ市で開催され、一昨年のCOP21で採択されたパリ協定を具体的にどう動かしていくか、さまざまな議論が交わされた。その結果、パリ協定の詳細なルール作りについて、締約諸国が、2017年に進捗状況を確認し、18年にルールの内容を実施するという指針が採択された。
 (論説委員・松崎裕史、写真も)

プレスコット

英国マスコミの取材を受けるプレスコット卿(右)

 「2016年は史上最も暑い年になる見込み。昨年暮れに発生した激しいエルニーニョ現象も関係している。気温上昇が最も顕著な北半球では、陸域の90%超で気温が平年より摂氏1度以上高い。海水温も平均を上回り、大規模なサンゴ白化現象や生態系の混乱が進んでいる」――11月14日、世界気象機関(WMO)がこう発表し、気候変動に対する厳しい認識が示される中で開かれたCOP22だった。

 どの締約国にもそれぞれ事情と主張があり、「パリ協定」への意見や要望は多々あった。先進国と途上国の主張間の深い溝と対立は相変わらずで、気候変動に対する人類の「応戦」の在り方はどうなるか、懸念もされた。小島嶼・途上国や石油輸出諸国、先進諸国グループなど、利害を異にするさまざまな意見を一つにまとめることは必ずしも期待できなかった。

 しかしCOP22の会議で、パリ協定の実施に向け互いに譲歩し最終的な合意を見たことは大いに評価できる。

 「パリ協定」では「世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前よりも2℃より十分に低く抑えること」また「世界全体の平均気温の上昇を1・5℃に抑えるための努力」を「継続する」ことが規定された。

 また「気候変動に対する世界全体での対応に向けた自国が決定する貢献に関し、パリ協定の目的を達成するため、その努力を通知する」という点が含まれた。

 この「自国が決定する貢献(NDCs)」はCOP19、COP20で提出が呼び掛けられた貢献予定が基になっている。既に2025年目標や2030年目標において提出している国は、2020年までに再びNDCsを提出することなどがCOP22で確認された。

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会議場周辺ではゼロエミッション(廃棄物の排出がないこと)を目指す車などが展示された

 今回、英国のパビリオンでコメントしたジョン・プレスコット卿(英ブレア内閣時に副首相で環境大臣を務めた)も、地球温暖化のCO2削減に長年、取り組んできた立場から、この世界的な問題に新たな技術やグリーン経済で炭素排出を削減しようと呼び掛けた。

 日本はパリ協定の国会批准が他の締約国より数日遅れたため、締約国会議参加資格を持たなかったが、マイナスの影響はほとんどなかった。

 日本は福島第一原子力発電所事故で、原子力発電の再開が難しい状況にあり、この4年余り、石炭、石油など化石燃料による発電が主とならざるを得なかった。そのため、パリ協定に向けた日本の排出削減目標は、東日本大震災後の2013年を基準年とするしかなく、2030年までに26%の削減目標を国連に提出した。

 国内では、原発に対し近隣住民の反対が重い足かせになっていて、再稼働がうまくいかない。しかし石炭火力発電の分野では、特に超臨界圧・超超臨界圧による超高効率の燃焼技術が実用化され、世界に誇り得るレベルのものとなっている。

 世界では、再生可能エネルギーへの依存率はまだ低く、石炭火力発電が4割を占める中、日本が持つ、この燃焼技術の輸出展開によってCO2削減に協力できる。日本と受け入れ国双方の排出削減にもなる「二国間クレジット制度(JCM)」を大いに生かすべきだ。

 一方、次期アメリカ大統領に決まったドナルド・トランプ氏が、COP22最中の11月8日、「パリ協定からの離脱」発言をして、この会議中の交渉関係者のうちだけでなく、世界に衝撃が走った。

 しかしイギリスの経済学者ニコラス・スターン卿は「トランプ次期大統領の発言は、恐れるほど悪いものではない」と話している。スターン卿は、スイスで毎年開催される世界経済フォーラム(「ダボス会議」)で、世界の大都市のCO2の濃度が急激に増えている事実に言及し、以前本人が発表した地球温暖化のリスクが過小評価であったことを吐露した人物。

 自らの名を取った「スターン報告」で種々の地球温暖化対策による損得、その方法や行うべき時期、目標などについて経済学的な評価を行って知られる。しかしその報告以上に環境悪化の事態は深刻であり、対策と行動を急がなければならないと、警告している。