比大統領就任半年、ドゥテルテ氏の依然支持高く
麻薬犯罪対策で治安改善
超法規的殺人に懸念も
就任から6カ月が経過したドゥテルテ大統領。さまざまな暴言や麻薬戦争をめぐる超法規的殺人で国際社会から注目を集める一方、依然として国内では高い信頼度を維持していることが最近の世論調査で明らかとなった。犯罪が減少し治安が改善する一方で、殺人が増加する実態も浮き彫りとなっている。(マニラ・福島純一)
警官の容疑者殺害2000人超
民間調査会社のソーシャル・ウェザーステーション(SWS)が先月22日に発表した世論調査で、ドゥテルテ氏が国民の高い信頼度を維持していることが分かった。調査では81%がドゥテルテ氏を「信頼している」と回答。前回9月の調査結果の83%から2ポイントの下落を示したが、依然として高い数値を維持した。超法規的殺人をめぐる国際社会からの懸念とは裏腹に、国内での安定した人気を見せつける結果となった。調査は先月3日から6日にかけて、成人1500人を対象に全国で行われた。
一方、SWSが行った政府高官に関する世論調査では、ドゥテルテ氏との確執で閣僚を辞任した副大統領のロブレド氏への信頼度が、前回9月の調査の49ポイントから37ポイントに下落するなど、アキノ前政権派を中心とした反ドゥテルテ運動が、国民の共感を得ていない実態も際立った。ロブレド氏は超法規的殺人や、マルコス元大統領の英雄墓地への埋葬をめぐり、閣僚就任後もドゥテルテ氏への批判を展開していた。
また国際社会から非難を集めている麻薬戦争に関する世論調査では、88%が地域に麻薬問題があることを認めた上で、85%がドゥテルテ氏が推し進める麻薬戦争に「満足している」と答えた。
しかしその一方で、78%が自身や家族が超法規的殺人の被害者になる可能性に懸念を抱いているとし、麻薬容疑者を生きて逮捕すべきだとの回答は94%にも達した。超法規的殺人への強い懸念があるものの、麻薬撲滅の方向性は間違っていないとの評価が大多数を占め、政権の高い信頼につながっている印象だ。
国家警察が明らかにした統計によると、ドゥテルテ政権下での警官による麻薬容疑者の殺害は2000人以上に達した。実行された麻薬捜査は約4万件に達し、逮捕された容疑者は4万人以上。警察に自首した麻薬使用者や密売人は90万人を超えている。一方、麻薬捜査中に死亡した警官は21人で、負傷者は60人だった。問題となっている正体不明の自警団などによる超法規的殺人の被害者は4000人近くに達していると言われているが、デラロサ国家警察長官は、今後も麻薬戦争における容疑者の殺害は続くだろうと見解を述べている。
また別の統計ではドゥテルテ政権下で犯罪が減少する一方、殺人が増加している実態も浮き彫りとなっている。国家警察によるとドゥテルテ政権が発足してから11月までに確認された犯罪は約5万5000件で、一昨年の同じ時期の約8万1000件と比較して、約31%の減少を示した。しかしその一方で、殺人事件は一昨年の約4000件から約5000件に増加した。麻薬戦争をめぐる超法規的殺人が影響していることは明らかで、果たして本当に治安が良くなっているのか疑問も残る結果となっている。
フィリピンで横行している超法規的殺人をめぐっては、ドゥテルテ大統領がダバオ市長時代に容疑者を殺害したとの発言を受け、国連の高等弁務官がフィリピン司法省に捜査するよう要請するなど、国際社会からの批判も強まっている。これに対しドゥテルテ氏は、「われわれは国連の給与を支払っている雇い主で、おまえはただの従業員」「脳みそが足りないなら、どうか黙っていてほしい」と暴言を交えながら反論。国連との溝をますます深める結果となっている。
また米シンガーソングライターのジェームス・テイラーさんは、2月にマニラで予定されていたコンサートをフィリピンで横行する超法規的殺人への抗議を示すために中止し波紋を呼んでいる。
テイラーさんは、「私の音楽は政治的ではないが、時には政治的な立場を示すことも必要」とした上で、「法の支配を愛する者にとって、法的裁きのない麻薬容疑者の殺害は受け入れられない」と指摘し、フィリピンで横行している超法規的殺人を非難。その抗議を示すためにマニラでのコンサートを中止するとした。
テイラーさんはグラミー賞を5回獲得した世界的な歌手でフィリピンでも人気が高い。プロモーターによるとチケットはほぼ完売しており、公演中止は超法規的殺人に対する国際社会の関心の高さを印象付けた格好となった。
依然として高い支持率を背景に、国内の改革を推し進めるドゥテルテ氏。しかし、その独特のスタイルは、今後も国際社会との溝を広げ物議を呼びそうだ。






