史上最悪の銃乱射事件、米大統領候補のテロ対策に疑問の声
米フロリダ州オーランドのナイトクラブで49人が犠牲となった米史上最悪の銃乱射事件を受け、「テロ対策」が11月に行われる大統領選の重要な争点になりつつある。ただ、共和・民主各党で指名獲得を確実にしている実業家ドナルド・トランプ氏とヒラリー・クリントン前国務長官がそれぞれ事件後に主張した内容は、支持拡大を狙った「政治色の強い」(ロイター通信)ものだったこともあり、「両者のテロ対策では効果が期待できない」とする指摘もある。(ワシントン・岩城喜之)
トランプ氏、イスラム教徒の入国禁止
クリントン氏、攻撃用銃器の法規制訴え
非現実的で効果なしとの指摘も
オーランドの銃乱射事件後、トランプ氏はこれまで主張してきた「イスラム教徒の入国禁止」が「正しかった」と述べ、移民の受け入れを続ければ、再び同じようなテロが起こると強調。そのうえで「私が大統領になれば、米国や欧州、同盟国に対してテロを行ったことのある地域からの移民を禁止する」と訴えるなど、さらに踏み込んだ主張を展開した。
トランプ氏がこうした過激な発言を繰り返すのは、昨年12月に米カリフォルニア州サンバーナディーノで発生した銃乱射テロ後に、イスラム教徒の入国禁止を打ち出して支持率が急上昇した背景があるためだ。今回も同様の発言で支持拡大を狙ったとみられるが、共和党幹部を中心に反発が強く、各種世論調査の支持率もほとんど変わらないなど思惑が外れた形だ。
保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ政策研究所のダニエル・プレツカ上級副所長は、トランプ氏の発言について「イスラム教徒の入国を禁止すると主張する以外に、テロ対策の戦略を持ち合わせていない」と批判。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も「移民政策だけでは、テロの脅威を取り除くことはできない」とし、トランプ氏の主張は孤立主義的だと非難している。
また、特定の宗教信者の入国を禁止すれば「憲法違反になる可能性がある」(アメリカン大学のハーマン・シュワルツ教授)との見方もあり、トランプ氏の主張には現実性がないとの指摘が多くある。
一方、クリントン氏はテロが起きたナイトクラブが同性愛者の集う場所だったことから、性的少数者(LGBT)への同情を示す姿勢を重視した。そのうえで、実行犯オマル・マティーン容疑者が使用していた攻撃用銃器を規制する法律の必要性を訴えた。
クリントン氏が主張する銃規制は、1994年に10年間の時限立法で成立した法律の復活を求めるもので、オバマ政権も以前から成立を目指している規制法だ。ただ、事件を契機に民主党の政策を推し進めたいとする思惑が見え隠れしていることから、規制反対派から「政治利用だ」との批判が上がっている。
また、攻撃用銃器の規制でテロを大幅に減らせるという主張には疑問の声もある。
WSJ紙は「以前の規制法が(統計上)銃犯罪を減少させることに、ほとんど効果をもたらさなかった」と指摘。カリフォルニア州では自動小銃の販売が条例で禁止されているにもかかわらず、サンバーナディーノで攻撃用銃器によるテロが起きたことから、「クリントン氏が求める銃規制は意味がない」と切り捨てている。
有力シンクタンク、外交問題評議会のマックス・ブート上級研究員は「銃規制だけで安全を得られるという幻想を持つべきではない」と強調。さらにクリントン氏が掲げる方針について、インターネットを通じて過激思想に傾倒する人への根本的な対策にならないとし、必要に応じて捜査当局による「おとり捜査」もすべきだと訴える。
ジョージ・W・ブッシュ政権で司法副次官補を務めたカリフォルニア大バークレー校のジョン・ユー教授は、テロ対策の観点からトランプ氏とクリントン氏に対して、次のような否定的な見方を示している。
「両氏で大統領選を争うことになった悲しい点は、米国へのテロを防ぐ現実的で効果的な対策が見込めない可能性が高まったということだ」






