アフガン新政権と日本の対応
拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ・ギャルポ
国際社会の一員に誘導を
警戒要する中国との関係深化
この約1カ月、世間の注目を浴びるのはアフガニスタン問題、特にタリバン政権の成り行きと、菅首相の予想外の総裁選不出馬宣言から発した政治的混乱である。アフガンにおけるタリバンの自分たちの伝統文化や宗教に基づく国家建設を目指す行為に対して、個人的には賛同している。ただ、その目的達成の手法に関しては納得いかない面もある。
例えば、かつて私たちチベットのゲリラがアメリカから援助を打ち切られ、元チベット領でネパールの領土になっていたムスタンで、チベットゲリラとネパールの国軍が衝突した時、ダライ・ラマ法王は「自分たちの領土内で中国と戦うには正当性があるが、他国の領土内で、しかも他国民を犠牲にする資格は我々にはない」とおっしゃって、ネパール領内でネパール軍との戦いをやめるようゲリラを説得した。同様の理由でタリバンのイスラム教を土台とした建国のために他の領土や国民を犠牲にすることには当然、賛同できない。
問題多い暫定政権閣僚
同様にたとえ民主主義とはいえ、他国や他民族に対して強制することにも正当性は感じない。今回、関係諸国および民主陣営が構築したアフガン政府と十分な協議もないまま、アメリカとタリバンの間で撤退を決めた経緯についても異論がある。とはいっても、今アフガンで起こっている諸問題の解決の方が急務であり、重要である。このどさくさに紛れて、中国政府はいち早くタリバンとの関係を深化させ、既に大きな影響力を持ち始めている。しかし、信仰をベースにしたタリバンと、信仰を否定する中国が究極的には相いれず、対立関係が生じるであろう。ただ私が心配するのは、それまでに中国が既に1兆㌦の投資やその他の援助を約束していることだ。
もちろん中国の目的は、アフガンの豊かな資源を搾取し、「一帯一路」の実現、ならびにイスラム同胞である東トルキスタン(ウイグル)への関与を阻止すること以外にない。タリバン政権が自分たちの過ちに気付いた時は、既に遅かりし、になっているかもしれない。このような中国の目論見(もくろみ)を阻止するには、欧米や日本など民主陣営の国々が、一方的に自分たちの価値観を押し付けず、国際社会の一員として歩むよう、引き続きアフガンを誘導することが重要である。
ただ残念ながら、今回のタリバン政権が発表した暫定政権の閣僚を見ても、国際社会が受け入れるような形ではない。かつてアメリカの捕虜になった人物や、アメリカや国際社会からテロリストとして認知される人物などが中核を占めており、西側が早急に認知できるような環境にはなっていない。またアフガンの内部事情やタリバン内の勢力のバランスなどを考えると、この問題は1、2年で解決するようなものではなく、むしろこの混乱は長引く可能性すらある。
このアフガン問題一つを見ても、日本が学ばなければならないことが多々あり、日本の次の自民党総裁つまり首相が誰になるかということがますます重要になっている。例えば今回タリバン政権の中核に返り咲いた多くの要人は、アメリカと捕虜取引などの該当者である。中国で10人前後の日本国民がスパイ容疑で拘束されているが、それらと交換できるような日本での中国人スパイは一人もいない。日本にはスパイ防止法が存在しないため、中国のスパイを捕虜としてはいない。しかし、かつて日本大使館に勤務し、オーストラリアに亡命した元外交官(中国人)は、日本の中国人スパイの存在を明言している。
国を守る明確な政策を
自民党の総裁に関しては党員でもない私が愚見を述べることは適切ではないが、自民党が与党である限り、その総裁は日本国の総理大臣である。候補者には憲法改正をも含めて日本国の主権、国民の生命と財産、および領土領空を守るという明確な政策、ならびに日本固有の伝統文化や普遍的な価値としての自由民主主義、人権などを守る姿勢およびアジアの平和と安定、世界の秩序を維持するためのインド太平洋構想に関する明確な立場を取るよう要望したい。
国民は一時的な世論に左右されず、誰がどのような公約を示しているか、それを実現するための知恵、決断力、経験を持つかを見極めて投票することを、自民党の党員および議員に求めるべきである。


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