アフガン駐留米軍 9割撤収完了
タリバン、国土の7割支配か
アフガニスタンの首都カブール近郊にあり、約20年間駐留米軍の最大拠点となっていたバグラム空軍基地が、アフガン側に引き渡された。米軍の空爆支援は大幅に縮小され、反政府武装勢力タリバンは各地で支配地域を拡大している。アフガン政府は、国民に武装蜂起を呼び掛けタリバンに対抗する姿勢を示すが、駐留米軍などが完全撤収すればアフガン政府軍が崩壊するとの見方が強まっている。(エルサレム・森田貴裕)
完全撤収後、政府軍崩壊も
駐留米軍などの撤収に伴って猛攻を開始したタリバンは、ここ数カ月で数十カ所の地区を次々と占領し、アフガン全土34州407地区の3分の1以上を支配下に置いたとされる。北部や北東部ではここ数週間で、政府軍兵士数百人がタリバンに投降し、数千人が隣接するタジキスタンに越境逃亡した。西部バドギス州の六つの地区を占領したタリバンは6日、都市カラエナウに侵攻を開始し、アフガン政府軍との間で激しい戦闘が続いているという。
不安定な治安情勢により、ロシア、トルコ、イラン、パキスタンは、北部マザリシャリフの領事館を閉鎖した。
米中央軍は6日、アフガン駐留部隊の撤収が9割以上完了したと発表した。駐留米軍は8月末の完全撤収を目指しているが、カブールの米大使館に米兵約650人が残ることが予想され、トルコ軍と並んで首都の空港に別の部隊が配備される可能性があるという。バイデン米大統領は、完全撤収後も永続のパートナーとしてガニ大統領が主導するアフガン政府への財政支援などを継続するとしている。
アフガン政府は、タリバンの急速な勢力拡大を阻止するため、国民に武装蜂起を呼び掛け、蜂起軍への武器や資金提供を行っている。報道によると、アフガン政府軍を支援するため、女性数十人を含む国民数千人が武装蜂起した。最終的には地元の警察や治安部隊、政府軍に統合されるという。
米国の中東ニュースサイト「メディアライン」によると、パキスタンのペシャワルを拠点とするアフガン研究の第一人者であるファルザナ・シャー氏は、「駐留米軍の撤収により、支配地域を拡大し闘争を続けるタリバン側が有利だ。アフガン政府軍は、おそらく2021年の終わりまでに崩壊し、旧ソ連軍撤退後の1990年代が繰り返されるだろう」と述べ、1996年に首都カブールを制圧して政権樹立を宣言したタリバン政権の復活を予測する。
パキスタンの元海軍将校で戦略地政学専門家のアディーブ・ウザマン・サフビ氏は、「国土の70%以上がタリバンに支配されており、アフガン政府軍兵士の大多数がタリバンに投降したという報告もある。駐留外国軍の完全撤収後、ガニ大統領が主導する政府は、タリバンのカブール攻略に対抗することはできない」と主張する。
タリバンは、9月11日のアフガン駐留軍撤収期限以後に国内に残っている外国軍兵士は標的にすると表明している。タリバンのスハイル・シャヒン報道官は、「アフガン駐留米軍が撤収完了した後、軍事請負業者や外国軍も国内にとどまるべきではない。ドーハ和平協定違反があった場合、完全かつ実際的な対応で報復されるだろう」と警告した。
一方で「タリバン戦闘員は外交官や外国人救援活動従事者を標的にすることは決してない。イスラム教の行動指針に照らし、大使館や外交官の保護は主な義務だ」と強調した。
米国とタリバンは2020年2月にカタールの首都ドーハで和平協定に署名。米軍は14カ月以内にアフガンから完全撤収するとした。バイデン米政権は、米国同時多発テロから20周年に当たる9月11日まで駐留米軍の完全撤収の期限を延期した。
バイデン米大統領は8日、「アフガニスタンの未来や統治方法はアフガン国民が決めるべきだ」と述べ、駐留米軍撤収後にアフガン政府が全土を統治できる可能性は極めて低いとして、アフガン政府に敵対するタリバンと共存を模索するよう求めた。
イランの仲介によりタリバンとアフガン政府の代表団はテヘランで7日と8日、今後の和平交渉に向けて協議し、武力ではなく平和的な解決策を模索することで合意した。
駐留米軍撤収後は、アフガン政府が統治するカブールなど都市部と、タリバンが支配する地区とに二分する可能性が高い。