イスラエル連立政権発足、右派のベネット新首相

 イスラエルで13日、右派、左派、中道派、アラブ系イスラム政党などの政策が異なる8政党が参加する連立政権が発足した。12年ぶりに政権が交代し、右派政党ヤミナを率いるベネット党首が新首相となった。2年後に中道政党イェシュアティド党首のラピド氏(57)に引き継ぐ。テルアビブでは市民らが新政権の樹立と、収賄罪などで公判が続いているネタニヤフ前首相の退陣を祝った。(エルサレム・森田貴裕)

対イラン強硬政策を継続
パレスチナとの経済協力強化も

 12年連続で首相を務め、在任期間が歴代最長の通算15年に及んだネタニヤフ氏は退陣した。テルアビブのラビン広場やディゼンゴフ広場などでは13日夜、長期のネタニヤフ政権に飽きて嫌気が差していた市民数千人が詰め掛け、新政権の樹立と、ネタニヤフ氏の退陣を祝って、泡や紙吹雪をまき散らし、噴水に飛び込んだ。参加者の多くは子供を連れて、踊ったり、抱き合ったり、歓声を上げたりした。約1年間、毎週末、ネタニヤフ氏の首相辞任を求める抗議デモに参加してきた市民らは、政権交代という変化を求めていた。

イスラエルのベネット教育相(左)とネタニヤフ首相=肩書はいずれも当時、2016年8月、エルサレム(EPA時事)

イスラエルのベネット教育相(左)とネタニヤフ首相=肩書はいずれも当時、2016年8月、エルサレム(EPA時事)

 ネタニヤフ氏は、13日の新連立政権に対する信任投票前の演説で、ベネット氏のヤミナや右派「新たな希望」を「偽りの右派だ」として、中道、左派、アラブ系政党との連立参加は、有権者の意思を裏切る行為だと非難した。

 ネタニヤフ氏は、バイデン米政権から、イラン核合意に関するイスラエルとの意見の相違を非公開にするよう要請があり、拒否したことを明らかにした。また、米政権は、ヨルダン川西岸と東エルサレムの入植地建設の凍結を既に要求しており、東エルサレムの米領事館の再開決定は、エルサレム分割を議題に戻すことになるとも述べた。新政権はイランの脅威に対抗できないと懸念している。

 新政権は、3月の総選挙で議席を獲得した13政党のうちの8政党で、13日の信任投票で、賛成60、反対59で、承認された。「青と白」党首のガンツ氏は引き続き国防相を務め、「わが家イスラエル」党首のリーベルマン氏は財務相に就任。リクードを離れて新たな希望を結成し、ネタニヤフ氏を退陣に追い込む重要な役割を果たしたサール氏は法務相に就任した。

 国防相、経済相、教育相などを歴任したベネット氏は、信任投票に先立つ演説で、「新政権は、イスラエルの全国民のために仕事をする」と述べ、当面は経済、教育や医療など内政問題を優先する考えだ。対イラン政策については、「イラン核合意への回帰は間違いだ」と指摘。イスラエルはイランの核兵器保有を容認しないと述べ、ネタニヤフ氏の強硬策を継続する意思を明らかにしている。また、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム根本主義組織ハマスとイスラエル軍との5月の交戦について「暴力やテロを容認するわけにはいかない」と述べ、「静寂があればパレスチナとの経済協力を強化する」と付け加えた。

 バイデン米大統領は、新政権を歓迎し「ベネット氏と協力して、両国間の緊密で永続的な関係を強化することを楽しみにしている」と述べた。

 一方、イスラエルと対立するパレスチナ自治政府のアッバス議長は、イスラエルの政権交代について、「イスラエルの内政問題だ。われわれの立場は常に明確であり、1967年の境界に基づくエルサレムを首都とするパレスチナ国家を求める」と主張した。

 ハマスの報道官は、「イスラエルの新政権の形態がどうであれ、占領であり植民地だ。われわれは権利を取り戻すために力ずくで抵抗する」と述べた。

 イスラエルのメディアによると、東エルサレムのパレスチナ住民からは、入植活動を進めてきたベネット氏によって、締め付けがさらに厳しいものになる可能性が高いと懸念する声が上がっている。

 イランの外務省報道官は、「イスラエルの外交や安全保障政策が新政権によって変わるとは思わない」と述べた。

 ベネット氏は13日夜遅く、最初の閣僚会議を開き、新連立政権の幅広い見解を強調し、各政党間のイデオロギーの違いについては抑制するよう閣僚らに求めた。

 連立交渉をまとめたラピド氏は、友情と信頼を基礎に政権を維持できるとしているが、3カ月の期限内に予算を成立させることができなければ解散、総選挙へ向かうことになる。