イスラエル 2年間で4度目の総選挙

首相派の連立協議は難航か

 2年間で4度目となるイスラエル総選挙(国会定数120)が3月23日に実施された。ネタニヤフ首相が率いる与党の右派リクードが首位に立ったものの、首相支持勢力の獲得議席は過半数を確保できていない。反対勢力も過半数を下回り、次期政権樹立に向けた連立協議は難航が予想される。連立協議がまとまらなければ、5度目の総選挙に向かう事態となる。
(エルサレム・森田貴裕)

汚職容疑めぐり膠着状態

 今回の選挙は、2020年5月に新型コロナに対処するため緊急統一政府として発足した連立政権を組むリクードのネタニヤフ氏と中道政党連合「青と白」のガンツ副首相兼国防相が予算案で合意できず、昨年12月に国会が解散したことに伴い、実施された。政策方針を問うものではなく、汚職問題で起訴されたネタニヤフ氏の首相続投か否かが争点となった。

3月23日、イスラエル・エルサレムで投票するネタニヤフ首相(右)と夫人(イスラエル政府報道局提供)

3月23日、イスラエル・エルサレムで投票するネタニヤフ首相(右)と夫人(イスラエル政府報道局提供)

 選挙の最終結果は、ネタニヤフ氏のリクードが30議席で第1党となり、反ネタニヤフ派のラピド元財務相率いる中道イェシュアティド(未来がある)が、17議席を獲得し第2党となった。2020年3月の前回総選挙で第2勢力だったガンツ氏の「青と白」は8議席。リクードから分裂し、打倒ネタニヤフ氏を掲げるサール元内相の右派新党「新たな希望」は、6議席を獲得した。

 今後の連立協議で、親ネタニヤフ派と反対派のどちらが過半数の61議席以上の連立を組めるかが焦点となる。

 リクードは、ユダヤ教超正統派のシャス(9議席)やユダヤ教連合(7議席)、極右の宗教的シオニスト(6議席)と連立を組んでも52議席で過半数に届かないため、さらに他の政党とも組まなければならない。ネタニヤフ氏は、新政権樹立に向けて前回と同様に反対勢力側にも連立への参加を呼び掛けるとみられるが、宗教的シオニストは、アラブ系政党との連立は断固として認めないとしており、厳しい交渉が予想される。

 反ネタニヤフ派も、イェシュアティド、「青と白」、中道左派労働党、極右「わが家イスラエル」、左派メレツ、右派「新たな希望」、アラブ系アラブ連合の7党を合わせても57議席で、中間派の政党を連立に組み入れなければ過半数に達しない。

 中間派は、ネタニヤフ政権で国防相を務めたことがあるベネット氏の極右ヤミナ(7議席)とアラブ連合から離脱したアラブ系イスラム教保守派ラアム(4議席)の2党だ。ただ、ヤミナのベネット氏は、ラピド氏のイェシュアティドとは組まない考えを表明している。

 イスラエルの総選挙は全国1区の完全比例代表制で、1948年の建国以来、単独で議席の過半数を獲得した政党はない。

 リブリン大統領が次期政権樹立に向けて、議席を得た13の政党から意見を聞いた上で、最も議席数が多い第1党の党首であるネタニヤフ氏、あるいは連立協議をまとめる可能性の高い第2党の党首ラピド氏に組閣を要請する見通しだ。リブリン氏は、3月31日に要請すると述べた。

 ネタニヤフ氏が連立政権を樹立した場合、首相を刑事訴訟から除外する法案の成立に向かうことは確実だ。

 一方、反ネタニヤフ派が政権を取った場合には、首相の任期は2期までとし、起訴中の者は首相になることを認めない法案を成立させる可能性がある。2020年3月の選挙後に、ガンツ氏が同様の法案を提出したが可決されなかった。

 ネタニヤフ氏は19年に、地元の通信業者に便宜を図る見返りに傘下のニュースサイトに自身に好意的な報道をするよう要求したなどとして、収賄、詐欺、背任の罪で起訴され公判中であり、首相の辞任を求める市民の抗議デモも続いている。ネタニヤフ氏はすべての容疑を否定しており、自身を首相の座から引きずり降ろそうとする「魔女狩りだ」と批判している。

 イスラエルでは、在任中の首相は起訴されても辞任する法的義務はない。また、有罪となった場合でも控訴が認められる限りは辞任する必要はない。

 シンクタンク「イスラエル民主主義研究所(IDI)」のヨハナン・プレスナー所長は、「汚職事件をめぐり起訴されても権力を維持しようとする首相によりイスラエルの議会が大きく二つに割れてしまった。膠着(こうちゃく)状態はここ数十年で最悪の政治危機である」と語った。