シリア東部で大規模空爆、米国とイスラエルが連携
シリア東部の都市デリゾール郊外で12日深夜から翌日未明にかけて、イスラエル軍によるとみられる大規模な空爆があり、英国に拠点を置く「シリア人権監視団(SOHR)」によると、シリア政府軍兵士を含む親イランの民兵組織の戦闘員少なくとも57人が死亡した。イランからイラク、シリアを横断してレバノンへと繋(つな)がる武器輸送ルートの要であるこの地域は近年、イスラエル軍によって繰り返し攻撃が行われている。(エルサレム・森田貴裕)
イランの核開発阻止も狙う
SOHRによると、空爆を受けたのは、デリゾール市からイラクとの国境に近いブカマル市までの地域一帯に多数存在するイランが支援する民兵組織の軍事施設や拠点、ミサイルや武器倉庫など18カ所。イスラエル軍戦闘機によるとみられる空爆で、シリア政府軍兵士16人、親イラン民兵組織のイラク人戦闘員16人、アフガニスタン人戦闘員11人が死亡した。残る16人の国籍は明らかになっていない。この空爆により軍事施設は破壊され、空爆の後の武器倉庫では激しい爆発が発生したという。国営シリア・アラブ通信(SANA)は、イスラエル軍による空爆だと報じたが、詳細は明らかにしていない。
イスラエルのニュースサイト「タイムズ・オブ・イスラエル」が米情報機関の高官の話として報じたところによると、シリアでの空爆は、米国とイスラエルとの連携によるもので、イスラエル軍は米国が提供した情報に基づいて、イランの武器輸送ルート上にある一連の武器倉庫を標的に空爆を実施したという。これらの武器倉庫はイランの核開発計画を支えるコンポーネントも保管されていたという。また、11日にはポンペオ米国務長官が米首都ワシントンのレストランで、イスラエルの対外情報機関モサドのコーヘン長官と会談していたという。
イスラエル軍はシリアでの空爆に関しては、シリアからの攻撃に対する報復攻撃を除き公式の発表を行っていない。イスラエルのガンツ国防相はシリアでの空爆の直前、北部シリアとの国境を訪れ「イスラエルは近くの敵だけでなく、遠くの敵に対しても行動を継続する」「われわれは座して待つことはせず、安全保障に関しては積極的に行動する」と述べた。ここ数週間で、シリア領内に展開する親イラン武装勢力を標的としたイスラエル軍によるとみられる攻撃は大幅に強化され、攻撃の頻度も高まっている。
イスラエルは、敵対するイランを脅威と見なし、シリア領内で、イランからその代理武装勢力であるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラへの高性能ミサイルなどの武器の移送を阻止するため、武器倉庫などを標的に空爆を行っている。
一方、イランは4日に、中部フォルドゥの核施設でウランの濃縮度を20%に引き上げたと発表した。濃縮レベルが2015年のイラン核合意前の水準に戻ることとなった。濃縮度20%のウランは「高濃縮ウラン」と呼ばれ、核兵器への転用が容易になるとされる。
イスラエルのネタニヤフ首相は、イランの濃縮度引き上げは、核兵器開発の継続を示しているとし、「イランの核兵器製造を容認しない」と表明した。イスラエルは、イランの核兵器製造を断固として阻止する構えだ。イスラエル紙「イスラエル・ハヨム」によると、イスラエル軍はイランの核開発計画を阻止するための攻撃の計画を立てているという。イスラエル軍のコハビ参謀総長は「イランの核開発を阻止する提案の一つとしての軍事攻撃は、大幅な予算の増額を必要とする」と述べた。
イスラエルはこれまでに2度、核施設を軍事攻撃している。1981年6月にイラク・タムーズの原子力施設にあるオシラク原子炉と、2007年9月にシリア東部の建設中の原子炉をイスラエル軍戦闘機がそれぞれ空爆し破壊した。
ネタニヤフ氏は、米政権がイラン核合意へ復帰した場合、「中東諸国の多くが核兵器の保有を急ぐだろう」と警鐘を鳴らす。イランの核施設が3度目の軍事攻撃の標的となる可能性は高い。