レバノン イスラエルと米仲介で境界線協議へ

天然ガスで経済危機打開

 イスラエルと敵対する隣国レバノンは1日、米国の仲介で、海上の境界線画定に向けた協議を開始することで合意した。地中海東部には天然ガス資源があり、両国は2009年以降、開発利権をめぐり対立してきた。両国間で協議が実現すれば30年ぶりの直接交渉となる。イスラエルとアラブ諸国の関係改善を後押しするトランプ米政権の外交努力が功を奏している。
(エルサレム・森田貴裕)

地中海諸国のガスフォーラム参加も

 イスラエルのシュタイニッツ・エネルギー相は1日、「近々、直接交渉が開始されることを楽しみにしている。両国間の排他的経済水域をめぐる論争に終止符を打つ」と述べた。

東地中海に向けて航行するトルコの掘削船と軍艦=2019年7月、トルコ国防省提供(AFP時事)

東地中海に向けて航行するトルコの掘削船と軍艦=2019年7月、トルコ国防省提供(AFP時事)

 1948年のイスラエル建国以来、イスラエルとレバノンは外交関係がなく、両国はそれぞれ、地中海の約860平方㌔を自国の排他的経済水域として主張している。

 レバノンのベリ国会議長は1日、ベイルートで記者団に対し「両国は厳密には戦争状態にある。これは枠組み合意であり、最終的な合意ではない」と述べた。また、陸地の国境線についても話し合うと主張した。

 ポンペオ米国務長官は1日、声明で、「レバノン、イスラエル、中東地域、米国の利益となる重要な一歩だ」と述べた。

 協議は今月中旬以降、イスラエルとの国境に近いレバノン南部の町ナクーラにある国連レバノン暫定軍(UNIFIL)本部で、国連や米国の仲介の下に行われる予定だ。

 米国の中東ニュースサイト「メディアライン」によると、レバノン軍の元少将でベイルートの中東研究センターのヒシャム・ジェイバー所長は、イスラエルとレバノンの海上の境界線画定に向けた協議について、「国交正常化とはまったく関係はないが、非常に重要な歴史的、経済的出来事だ」と述べた。レバノンは「海底資源が盗(と)られるのをただ黙って見過ごすことはできない。協議が早ければ早いほど、合意に達する可能性が高くなり、陸地の境界についても最終的な合意に繋(つな)がる可能性がある」とも述べた。

レバノン

 

 トルコのシンクタンク国家戦略研究評議会(MiSAK)の国際問題アナリストであるムサ・ウチャン氏は、「フランスの主要な石油会社がレバノンの天然ガス資源に興味を示していることは既に明らかとなっているが、海上境界線が係争中のため探鉱を開始できないでいた」と述べた。海上境界線の解決により、レバノンは沖合の天然ガス田を利用できるようになるという。

 中東問題の専門家であるハッサン・マーヒジ博士は、「協議の宣言は、地域の発展の一部であり、和平協定へ向けて進んでいる。イスラム教シーア派政党・武装組織のヒズボラやアマルは、協議への動きを拒否することは組織に良い影響を与えないと認識している」と述べた。深刻な経済危機に瀕(ひん)しているレバノンは、特に海洋エネルギー資源に頼らざるを得ない。

  2009年、イスラエル沖の地中海でタマル天然ガス田が発見され、10年にはイスラエル史上最大のリバイアサン天然ガス田が発見された。それまで天然ガスを輸入していたイスラエルは今年1月、ガス田から隣国のエジプトやヨルダンへのガス供給を開始した。

 今年9月22日、エジプト、イスラエル、ギリシャ、キプロス、イタリア、ヨルダン、パレスチナ自治政府は、天然ガスの探鉱と開発を促進する機関である「東地中海ガスフォーラム(EMGF)」を正式に設立した。採掘した天然ガスを拠点となるエジプトに送り、LNG(液化天然ガス)に加工して輸出。また、イスラエルやキプロスの沖合で採掘した天然ガスは、パイプラインを敷設しギリシャのクレタ島を経由してイタリアへ、そして他の欧州諸国に供給する計画だ。

 イスラエル、トルコ、フランスなどの大国は、地中海東部の天然ガス資源をめぐり互いに競争している。

 トルコのエルドアン大統領は、イスラエルからギリシャへ海底経由でパイプラインを敷設するには排他的経済水域の画定によりトルコとリビアの承諾がないと不可能だとし、EMGFの計画に難色を示している。

 天然ガス資源の開発の必要に迫られているレバノンは、将来的にEMGFへ参加する可能性が大きい。